私はすでに死んでいる

私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳様々な精神疾患の事例をもとに、「自己」とは何かを探求している。
哲学の問いに、神経科学の最新の知見による回答を模索している本である。
「自己」というものの危うさを感じさせる。

プロローグで語られる説話が、この本のテーマである。
身体の部分を少しづつ鬼に交換された男。
全ての身体を交換された時、その男は、もとの男と同じ人間だろうか。

この本で紹介されている精神疾患は、メジャーなものもあれば、初めて聞くものもある。
まずは、「コタール症候群」。
自分は存在しないと信じ込んでしまう病気だ。
脳は死んでいるのに、精神は生きている、奇妙な状態におかれてしまう。

「認知症」では、自分の物語(ナラティブ)が消えていく。
「身体完全同一性障害(BIID)」は、身体の所有感覚を失ってしまう。
「これは自分の足ではない」と主張する。
それ以外に「統合失調症」「離人症」「自閉症スペクトラム障害」「自己像幻視」「恍惚てんかん」などの疾患を例にし、「自己」を形作る様々なものが失われる状態が説明される。

この本を通して語られるのは、我々が当たり前と思っている「自己」の「認識」の危うさである。
人間は、いかに複雑で、脆いシステムの中で、「自己」を「認識」し「維持」しているのか、考えさせられる。

親友に告白したことで、デヴィッドは自分が孤独ではないことを知った。
インターネットには、同じ悩みを持つ人のコミュニティまであった。
彼らは自分の身体の一部ーたいていは手足のどれか1本だけだが、2本のこともあるーを切り落としたいという強烈な観念にとりつかれている。

身体所有感覚、自己位置感覚、さらには自己が観察するときの視点まで、自己感覚を構成する側面を、私たちはあって当然、変わらなくて当たり前と思っている。ところが実際には、健康な人でさえあっけなく崩壊することがあるのだ。

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