池袋ウェストゲートパーク・シリーズも9作目である。
幼馴染であるストリートギャングのボスか、ヤクザの若頭から相談を持ちかけられて、普段は果物屋の店番をしているマコトがトラブルを解決する。
このパターンは変わらない。
マンネリで飽きそうだが、その時々の社会問題が織り込まれているので、毎回新しい発見がある。
新聞記事とは違い、問題に苦しめられる人間を描くことで、社会問題がリアルに感じられる。
浮浪者のパレードや出会い系での純愛もそれぞれに面白いが、今回の目玉は、表題にもなっている「ドラゴンティアーズ」である。
研修生として日本の工場で働いていた女性が逃げ出し、池袋に潜伏する。
マコトは、研修生のコーディネーターから捜索を依頼されるが、日本に進出しつつある中国マフィアも絡み、事態は単純ではない。
それぞれの立場による正義があり、解決は難しい。
GDPにおいても中国は日本を抜いて豊かになったのだから、何も日本で働く必要はないのではないか、と私も素朴に思っていた。
だが、中国における都会と農村の格差は、日本人の想像を越える厳しさのようだ。
中国の農村の人間から見ると、日本はまだ黄金の国ジパングであるようだ。
この行き詰まった状況を解決する、アクロバティックな方法が素晴らしい。
ちょっと考えれば思い付くことだが、マコトに感情移入している読者には、なかなか考えが及ばない 。
新しいキャラクターとして、次回から活躍してくれると嬉しいのだが。
なんだかんだ言っても、このシリーズには華が欠けているから。
IWGPシリーズは、物語を通じて社会問題を理解するという、小説のもつ大きな機能を実現している。
実は立派な小説であることを、今回は実感した。
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