日経コンピュータでは「これからはビックデータの時代だ」と騒いでいる。
確かにその通りだとは思うのだが、実態が掴めない。
この本はビックデータビジネスの背景、実例、技術についてまとまった説明がされている。
そして、とても読み易い。
なぜITCベンダーがビッグデータビジネスに乗り出すのか?
理由は明確である。
1.利用サイド事業者の「電子化・自動化」に関するIT投資が一巡したため
2.クラウドの影響もあり、ICT市場全体が縮小傾向にあるため
3.基本的な計算能力・ストレージ容量や入出力性能の費用対効果が向上しているため
4.ビッグデータ活用を支える技術・商材が登場しているため
ビックデータの活用には分析が重要になる。
ダベンポートは分析深化の段階を次のように定義している。
1.定例・臨時報告
2.調査(原因特定)
3.警告(対策の示唆)
4.統計分析
5.予測・推計
6.予測モデル
7.最適化
最も望ましいデータ活用のあり方は「将来、どうしたら良いのか?」といった施策を示すことである。
ビッグデータに関する技術の概念はそれほど複雑ではない。
面白いのはその事例である。
googleは電話番号案内の音声サービスにビッグデータを活用している。
電話番号案内の音声サービス自体は利益を産まないが、膨大な量の音声データを解析することでアルゴリズムをトレーニングしている。
キンドルでは、電子書籍を読む時に、ユーザは面白いと思ったところにアンダーラインを引く機能がある。
amazonはこの情報をサーバー上に蓄積し、更にピンポイントに絞ったレコメンデーションやマーケティング企画を狙っている。
docomoは、携帯電話事業を通じた社会貢献の一環として「モバイル空間統計」の研究に取り組んでいる。
各基地ごとの携帯電話を周期的に確認しているので、顧客データベースとマッチングすることで、人口の地理的分布が推計出来る。
建設機器大手のコマツの建機監視システム「コムトラックス」では、機械の動いている地域や台数を逐一把握でき、将来の需要を予測しながら効率的に生産出来る。
信用力の低い個人事業主でも、機器の稼働を監視することで資金回収が出来る。
機器が動いているということは作業代金をもらっていることを意味し、支払い能力があると判断出来る。
仕事があるのに支払わない悪質な顧客は、遠隔操作でエンジンを止めることで対応し、回収リスクを大幅に低減出来た。
カメラと連動した顔認識技術を会員制スポーツクラブにおける接客支援として用いる事例がある。
受付やジムなどの各チェックポイントにカメラを設置することで、自動入退館から動態管理、館内売掛まで対応可能とするものである。
利用者がどの機器を、どれくらいの時間、どういう順番で利用したのか、というデータの取得を可能とする。
これにより、動線改善や機械の選定、会員への効果的な施設の活用方法提案などに利用することが想定される。
視点は違うが、以下のような知見も興味深い。
googleやamazonでのユーザテストの結果から、「スピード」が収益を左右することがわかっている。
検索結果の数が増えても、レソポンスが下がると、トラフィックも収益も下がってしまうのだ。
「タイヤの回転エネルギーをもとに発電し、タイヤ内の空気をモニタするシステム」などの登場が期待されている。
グーグルのチーフエコノミストであるハル・バリアン氏が、2009年にインタビューの中で「今後10年間でセクシーな職業は統計家である」と述べている。
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