二流小説家

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)懐かしい感じの小説である。
死刑囚の手記を引き受けた売れない作家が、恐ろしい事件に巻き込まれる。

ヒッチコックのサスペンス映画のような設定である。
売れない作家である主人公の日々の生活の描写も微笑ましい。
情けない男の周りには、しっかりした女性が集まってくるようだ。
武装したストリッパーも良いが、自称ビジネス・パートナーである女子高生が、私の一番のお気に入りである。
彼女との別れは、とても寂しい。

間に挿入される、主人公によるSFやハードボイルド、近頃流行りのロマンチック・ホラーも面白い。
また、文学や小説に関するウンチクにも興味深いものがある。

人類の歴史には、さしたる理由もなく身の毛のよだつようなことをやってのける、ごく普通の人々があふれている。
しかしながら、小説のなかでそうした無粋な事実を押しとおそうとしたところで、誰も納得させることはできない。
そんな小説を買う人間はいない。
少なくともエンターテイメント小説として成立することはない。
ゆえに、小説家は矛盾を孕んだ任務を背負いこむこととなる。
宗教にも、心理学にも、日々のニュースにも成し遂げることのできなかった任務—現実に現実味を与えるという任務を。

全体のトーンに対して、犯人の独白がグロ過ぎる気がする。
そこまで細かく描写する必要はないと思うのだが、近頃はこれくらいは普通なのだろうか。

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