人間和声

人間和声 (光文社古典新訳文庫)久しぶりの古典的ファンタジーである。
「ジョン・サイレンス」シリーズで有名なブラックウッドだが、それ以外の作品は知らなかった。
良くも悪くも古典の香り漂う作品だった。

この物語のテーマは、音声の魔法である。
ファンタジーにおいては、呪文や真の名前は定番の要素だが、ここまで音に拘った作品を、私は他に知らない。
主人公を秘書に雇う孤高の求道者(マッドサイエンティスト)が、いかに真理に迫る言葉の発声を実現するか、ただそれだけが語られている。
その発声のためには、適正な音を発声出来る男女4人が必要であり、主人公はその中の1人の候補として雇われる。

真理の偉大なる探求に参加できる喜びと、人の道に外れた行為ではないかという恐れに主人公は翻弄される。
実験のために育てられた美しい女性との愛が、彼を更に混乱させる。

ワンポイントのアイディアを、過剰なまでの描写で追求しつづける手法は、この頃の小説にはあまり見られない。
ちょっと読みづらいところもあるが、新鮮でもあった。

「いや、ちがう。
それよりももっとーはるかに大きな実験なのだ。
ただの”天使たち”の名前ならば、私は誰の助けも借りずに独りで呼ぶことができる。
だが、私が発声したい名前は、冒頭の一音節を発生するだけでも、1つの和音を必要とするのだ。
(中略)
しかし、全音節を完全にー名前全体を発声するにはー世界中のオーケストラの半分を集めて、一国の人間全員に合唱させなければならないかもしれん」

「それこそ、私の発見のもうひとつの部分ーその本質的な点なのだ。
すなわち、物の形を変えるほどの微妙で速い音の振動を生み出すということだ!」

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