モルフェウスの領域

モルフェウスの領域 (角川文庫)海堂尊の引き出しの多さには驚くしかない。
医療サスペンスでデビューした海堂尊は、小説の舞台こそ医療現場だが、そこに様々なテーマや物語の手法を投入して来る。
今回のテーマは、コールドスリープである。
そして美しく異質な純愛である。

将来の医療技術の進歩で治療出来ることを期待して、難病を抱えた少年は、期限付きのコールドスリープを受け入れる。
主人公は、眠り続ける少年をメンテナンスし続ける女性である。
目覚めた少年は、世界から冬眠中の5年間を隔たりとして持つことになる。
少年は、目覚めた時に、周囲の人間と5年ズレた過去の自分を続けるか、別の人間として新しい人生を歩むか、選択しなければならない。

そして、5年間少年を見続けた主人公は、少年と関わりを持つことが出来なくなる。

コールドスリープというとSF的なアイテムを使いながらも、医療と法律問題でリアリティを持たせる手腕はさすがである。
コールドスリープの法的根拠となった考え方について、起案者と主人公との間のメールでのやり取りは、息詰まる対決でもある。
敵対者でもあるこの起案者は、自分の利益を追い求める嫌な官僚ではない。
論理のみを追い求める、ある意味爽やかな変人である。
彼だけではなく、眠りへの憧れのためにコールドスリープ装置を開発した不眠症の天才など、キャラクターも面白い。

目覚めた少年が実験台になるのを避けるために、彼女が取った驚くべき行動は、私にはちょっとその論理が分からなかった。
しかし、その後の情景の美しさは、新しいタイプの純愛小説だと思う。
ネタバレになるので、あまり説明出来ないのが残念。

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