ヤバい統計学

ヤバい統計学統計学の凄さを語るのでも、嘘を暴くのでもなく、統計学の有用性と限界を多くの事例で解説している。
身近な事例を元に、統計学的見地からの興味深い説明が多い。
因果関係が分からくても、有効的なら利用するという、応用科学としての統計学を理解出来る本である。

日本語のタイトルは、ヒットした「ヤバい経済学」の明らかにパクリである。
原題は、NUMBERS RULE YOUR WORLDである。
これはこれでカッコイイと思うのだが。

現代は多くの情報に溢れている。
しかし、多くの情報を得ても、決して賢くなるわけではない。
多くの情報を有効に活かす、実践的応用科学が統計学である、というのが本書のスタンスだ。
本書では身近な事例を使って、5つの観点で統計学を解説している。

まずは、「ファストパスと交通渋滞」である。
ファストパスは、ディズニーランドで並ばずにアトラクションに乗れる予約券のことである。
交通渋滞は、高速道路へ入る車の量をコントロールするランプメータリングの話題である。
ここでのポイントは、人間にとって問題は、平均よりも平均からのづれである偏差だということだ。
ファストパスを貰った時間からアトラクションに乗るまでの時間は、普通に並んでいるよりも長い。
しかし、その時間が確実なので満足度が高い。
渋滞についても、あらかじめ時間がわかっていれば対処も出来るが、時間が不安定なので不満なのである。
不確実性が不安を生むのだ。

次は、「ほうれん草とクレジットカード」である。
O157が感染した原因がほうれん草であることを突き止めた方法と、クレジットカードの普及はクレジットポイントによって個人の信頼性が予想出来るようになった結果である。
クレジットポイントはポイントの低い人への弊害も大きく、ポイントが確実に個人の信用を測れるわけではない。
どちらも因果関係を科学的証明出来るわけではない。
しかし、統計的に相互関係を見つけることが出来る。
その結果、O157の拡大を阻止し、クレジットカードの普及を後押しした。
因果関係は証明出来なくても、相互関係が分かれば有効に利用出来る、というのが応用科学である統計学のスタンスである。

「大学入試とハリケーン保険」では、全体の平均がグループ間の差異を見えなくする問題である。
アメリカの大学入試資格試験では、問題が白人男性に有利であるという問題が提起された。
全体で見ると確かにその通りなのだが、黒人に対する教育環境が悪い現実を考慮すると、単純に人種間で公平な問題を作るのは無理がある。
同じように、ハリケーンの影響の大きい地域と小さい地域で同じ保証の保険を作ると、保険が破綻する可能性が高い。
条件の違う複数のグループをひとつのグループとして見ると、平均には意味がなくなる。

「ドーピング検査とテロ対策」では、統計検定の限界について語られる。
統計に基づく判断は、2種類の間違いの間で折り合いを付ける必要がある。
ドーピング検査にしろ、テロ対策にしろ、クロを正確に見つけるには、間違った人々を多くクロと判定してしまう。
逆に、無実の人をクロとしないような検査は、実際にクロの人を見逃す可能性が高い。

「飛行機事故と宝くじ」では、統計学者が奇跡を信じないことがテーマである。
統計学者は奇跡を信じず、統計的検定を使う。
めったに起こらないことはあり得ない、とする方針である。
具体的には、1 〜5%しか発生しない事象はあり得ないとする。
飛行機事故は車の事故に比べて圧倒的にあり得ないし、宝くじの販売店の店主が当選することが多いのは違法なことをしているのである。

日々の生活に利用出来るかはともかく、現実の事象に対し一歩ひいて考えるには、統計的思考は有効だと思う。

驚くことではないが、新しい道路を建設することは間違った処方箋だ。道路の処理能力が増えれば、少なくとも短期的にはボトルネックは解消できるだろうが、信頼性そのものが変わるわけでなない。それどころか多くの交通専門家が、道路をつくって渋滞をなくすことはできないと指摘している。
経済学者のアンソニー・ダウンズも著書「渋滞からは抜け出せない」で、三重の渋滞法則を提唱している。それによると、新しい道路ができて交通容量が増えるとすぐに、ドライバーは道路建設の際に想定されていた効果を打ち消すような3つの行動を取る。①一般道を使っていた人が高速道路に戻る、②時差通勤をやめる、③公共の交通機関を使っていた人が自家用車に戻るの3つだ。したがって新たな発想が必要になる。

ケースA スクリーニング検査
・情報機関は職員1万人のなかに10人のスパイが潜んでいると考えている(1000人につき1人)。
・10人のスパイのうち、ポリグラフ検査は90%(9人)を正しく見抜き、1人を間違えてシロと判定する。
・残る9990人の潔白な職員のうち、ポリグラフ検査は10%にあたる999人を間違えてクロと判定する。
・スパイを1人特定するごとに、111人の潔白な職員を間違って告発することになる。

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