ナチュラル・ボーン・ヒーローズ

ナチュラル・ボーン・ヒーローズ―人類が失った"野生"のスキルをめぐる冒険ウルトラマラソンについて冒険小説のように描かれた「BORN TO RUN」の作者による新作である。
今回は、クレタ島におけるナチスドイツ将校の誘拐事件を背景に、人間の身体を効率的に動かす古代からの方法について語られている。
語りのスタイルとしては「BORN TO RUN」と同じだが、今回は話が飛びすぎてまとまりのないイメージとなっている気がする。

話の基本線は、第2次世界大戦時にギリシャのクレタ島で行われたイギリスの特殊部隊によるナチスドイツ将校の誘拐事件である。
なぜ、少数の部隊がドイツの大部隊を向こうに回し、逃げ切ることが出来たのか。
その理由として、クレタ島に古代から伝わる人間の動きがあるという。
ギリシャ時代に開発された英雄の”自然な動き(ナチュラルムーブメント)”では、少しのエネルギーだげで長時間野山を駆け回ることが出来る。
著者は、実際にイギリスの特殊部隊がクレタ島で使ったルートを辿っていく。

一方、様々な学者や活動家を通じてナチュラルムーブメントについて調査を行っている。
近年フランスで流行したパルクールも、ナチュラルムーブメントの一種だと言う。

戦時下の冒険モノとしても楽しめるし、ナチュラルムーブメントやパルクールも興味深いが、「BORN TO RUN」ほどのインパクトは無かった。
「BORN TO RUN」では様々な時代や人物に焦点を移すことでウルトラマラソンの背景が立体的に、活き活きと感じられてが、今回はまとまりがなくなってしまった感じだ。
もっとナチュラルムーブメントの技術的側面や達人の姿を中心にして欲しかった。

「よっしゃ!」と老人の声がした。「やつらは1日で村じゅうを焼き尽くすだろう。だがそれがどうした? 私の家などトルコ人に4度も焼かれた。5度目はドイツ人にやらせるさ! 家族だってうんと殺された。うんとだぞ。それでもおれは生き残った! いいか、これは戦争なんだ。戦争ってのはそういうものなんだよ。結婚の宴だって肉がなくちゃはじまらんだろう。さあ酒をついどくれ、パパディア」
彼らがパパディアの計略を気に入ったのは、それが単なる戦争行為にとどまらなかったからだ。それは彼らクレタ人への敬意の証しだった、まさかと思える詐欺をやってのけることほどクレタ人らしいーあるいはギリシャ人らしいーことはない。古代ギリシャの英雄たちはつねに何かを盗んでいたし、それがより大きく、より機械で、より盗むのが困難なほどよしとされた。手癖の悪さはギリシャの神学に欠かせないもので、誰かに一杯食わせる筋立てのない神話を見つけるほうが難しい。

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