もう年はとれない

もう年はとれない (創元推理文庫)87歳の元刑事が主人公のハードボイルドである。
口が悪く偏屈なジジイなのだが、なかなかカッコいい。
刑事時代はダーティーハリーばりのワンパクさだったが、歳をとって身体も言うことをきかない。
転んだだけで寝たきりになったしまう恐れがあるのだ。
それでも戦い方はある。
高齢化時代のヒーローかもしれない。

元刑事のバック・シャッツの元に、第二次大戦中の戦友が会いたいと言ってくる。
妻に言われてしぶしぶ会いに行くと、彼らを虐待したナチスの残党が生きていることを伝えられる。
バック・シャッツは気乗りしないまま、ナチスの残党を探すことになる。
ナチスの残党が金塊を持っているという噂から、金塊を狙う人々が残党狩りを始め、ついには殺人事件が起こる。
身体の不調と認知症への不安を抱えながら、賢く生意気な孫と一緒にバック・シャッツはナチの残党を追う。

バック・シャッツの皮肉なセリフと人の目を気にしない行動が痛快である。
しかし、それだけではない。
老いることの不安と不便さ、諦観が普通のハードボイルドと一線を画している。
是非シリーズ化して欲しい作品だと思っていたら、既に2作目も出版されているようだ。
ただ、彼の年齢を考えると、そんなに長いシリーズにはならないのだろう。

「こちらにご入居をお考えですか?」
「まさか」わたしは言った。「面会に来たんだ。おれがああいう連中と同じに見えるか?」
「いいえ」彼女は答えた。「あなたのほうが年上だわ」
「ああ。あんたは少し体重をへらしたじょうがいいぞ」

広く信じられているのとは逆で、たいていの殺人にはたいした謎がない。小説やドラマでは、警官はいつも不可解な動機を解明しようとするし、登場人物には裏がある。しかし、ほんとうの殺人事件はあさましくてまぬけでこまやかさに欠け、刑事が会う人間の大半はまさに見かけどおりだ。なるほどと思わせる策略をめぐらせる頭や想像力がクズにあるなら、そもそもクズにはなっていない。

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