もう過去はいらない

もう過去はいらない (創元推理文庫)「もう年はとれない」に続く、バック・シャッツ・シリーズの2作目である。
90歳近い元刑事のバック・シャッツが、またも事件に巻き込まれる。
高齢者が主人公というワンポイントアイディアの小説だが、今回は過去と現在を交互に描写することで、前作よりも深みのある作品になっている。

バック・シャッツは、前回の事件で負傷し、自宅を出て完全介護が受けられるケアホームに住むことになる。
自由が制限され、リハビリばかりの毎日にバック・シャッツの不満は溜まるばかりである。
そんな彼の元に、50年前の大泥棒イライジャが現れ、助けを求めてくる。
殺し屋に狙われているから、保護して欲しいというのだ。
身体の自由さえきかないバック・シャッツは、信用できる警察官を紹介することにするが、移送中を襲われイライジャは誘拐されてしまう。

今回は年寄りの元刑事と年寄りも元大泥棒の話である。
前作より歳を取り、怪我で身体の自由がきかなくなったバック・シャッツは、それでも悪態をつきながら我道を行く。

今回の特徴は、現代と50年前が交互に描かれていることろだ。
50年前では、バック・シャッツとイライジャの銀行強盗に関わる因縁が描かれている。
そこで描かれるのは、ユダヤ人に対する差別と、その中で生きるユダヤ人の正義である。
法律が正しく運用されていない状況で、何を正義として行動するかが問われる。
そんな時代を生き抜いたバック・シャッツなので、彼の正義のあり方も単純ではない。
単なる暴力刑事に見えるが、ユダヤ人であることが問題を複雑に、奥深くしている。

結局のところ、バック・シャッツは勝利したのか。
余命が少なく、欲しいものもほとんどない老人にとって、勝利の意味も変わってくる。

シングルマザーでバック・シャッツを育てた彼の母親は、レイプ対策としてスカートにカミソリの刃を縫いこんでいた。
実際にレイプされそうになった時には、カミソリの刃と爪で犯人の腹を割いて、内臓を引き出したというから凄まじい。

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