華竜の宮

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)地殻変動により海水面が上昇し、大部分の陸地が水没した未来。
テクノロジーの力で生き延びた人類を新たな脅威が襲う。
日本人作家による海洋SFは、2組みのバディの小説であり、外交をテーマにした小説だった。

遺伝子改造により、海上で生きられる人類が作られた。
海上民は出産の時に人間の赤ん坊と同時に、山椒魚のような舟獣を産み落とす。
成長した舟獣は、一緒に生まれた人間が住む家となる。
しかし、一緒に生まれた伴を失った舟獣は凶暴化し、地上を襲う。

陸上に住む人々はアシスタントAIを使っている。
アシスタントAIは、人間の脳をモニターし助言や身体の状態の調整を行う。
アンドロイドのボディを操り、人間と行動を共にすることもある。

この小説は、海上民と舟獣、地上民とアシスタントAIの2組みの関係のバディ小説である。

主人公の青澄は日本政府に所属し、海上民同士や地上民との揉め事を解決するトラブルシューターである。
彼は、武力での解決ではなく、話し合いでの解決を常に目指している。
地殻変動後の地球を描いた設定はダイナミックだが、基本的には外交をテーマにした小説でもある。
彼の相棒であり、冷静で気のいいアシスタントAIとの掛け合いが楽しい。
青澄は、海上民のリーダーの秘密をめぐり巨大な組織を出し抜かなければならなくなる。

舟獣のイメージが掴みづらいので、是非映像化して欲しいものだ。

<<交渉というのは価値観の異なる他者との対話だ。だから、ときにはまったく解決がつかない場合もある。どこまでいっても平行線にしか見えないことも・・・>>
<<けれども、それに対して知恵を絞り、言葉を絞り、体力を振り絞って、両者が進むべき道を模索しなさい。その行為は、人間が最も知的である瞬間なんだよ。たとえその場で、どれほど乱暴な、どれほど感情的な言葉が飛び交ったとしても、最後まで決してあきらめるな。間接的な効かせ方とはいえ、言葉は暴力を止められることもある。それを忘れてはいけない>>

人間とアシスタント知性体は、お互いに影響しあって成長する。ふたつはひとつのシステムだ。アシスタントによって人間は思考を深め、アシスタントは人間からの問いかけによって、より人間に近い思考を獲得する。

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