オービタル・クラウド

オービタル・クラウド伊藤計劃を知ってから、日本の新人SF作家も見逃せなくなった。
新しい作家の作品を読むと、趣味が合わないこともよくあるが、この作品はアタリだった。
近未来の宇宙開発と世界的な謀略戦が、独創的なアイディアとリアリティで見事に描かれている。
「火星の人」も良かったが、近頃は、近未来宇宙開発SFがアツいのかもしれない。

天体情報の公開をサービスとする日本のベンチャー企業が、本来落下すべき打ち上げ後のロケットが、不思議な動きをしていることを発見する。
この発見が、北朝鮮の宇宙兵器を巡る世界的謀略に展開する。

北朝鮮に宇宙兵器を開発する科学力があるのかと疑問に思うが、実際に開発したのは日本の科学界を追われた天才科学者だった。
それを解明するのもベンチャー企業を一人で切り盛りしている日本人である。
宇宙を舞台にした謀略の中心に、よくも悪くも日本人が居るのは嬉しい。

地球軌道を永久に航行する革新的な推進システムが、実際に可能かどうかは分からないが、とても面白い発想である。
小説の中では十分にリアリティがある。
また、IT的なネタが多く、どれもユニークだ。
Webブラウザ上に表示される2つの広告を組み合わせて作られるウィルスや、オーディオケーブルのドライバソフトに仕込まれたウィルスなど、本当にありそうだ。
主人公の相棒でもある女ハッカーが、小型コンピュータRaspberryPiを使っているも嬉しい(私も電子工作で使っているから)。

世界初の宇宙ホテルがターゲットとなる。
そこで状況を伝える大富豪の娘も明るくて良い。
自分が死ぬかもしれない状況なのに、宇宙開発の未来を信じて、前向きに行動する。
基本的には、宇宙開発の明るい未来を描いた小説である。
大国による宇宙開発の独占の問題が背景にあるが、宇宙開発を望む関係者のバイタリティが、それを乗り越えられるだろうと思わせる。

ここからネタバレ
革新的な推進システムで地球軌道上を航行する宇宙船は、スマホの基盤で作られた超小型宇宙船である。
その超小型宇宙船が、数万単位で地球軌道に存在する姿は、今までにないスゴいイメージだ。
このようなSFらしいSFを、日本の作家が書いて、それを読めるのはとても幸せだ。

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