人体600万年史

人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病人間は健康になるためではなく、子供をたくさん作れるように進化した。
現代では多くの人が食べるには困らない状況にある。
進化によって作られた身体と環境にミスマッチが起こり、それを原因とする病気が発生するようになった。
身体的特徴から人類の進化と環境のミスマッチを考察し、解決策を検討しようというのが本書である。

この本では、いくつかのポイントで人類の進化を考察している。

まずは「直立する類人猿」としての人類である。
人類は直立することで、高い木の実が食べられるようになり、死体などのエサを持って移動出来るようになった。
移動のエネルギーが節約出来るように進化し、体毛がなく温度調節が他の哺乳類より有利になったことにより、長距離歩行者となり、ランナーとなった。

次に「狩猟採集民」となった。
気候変動が原因で食生活が変化した。
肉を食べるようになり、食物を掘り出し、加工して食べるようになった。
仲間と協力するようになった。

氷河期が訪れ、急速に環境が変化するにつれ、生存戦略が変わった。
他の類人猿よりも乳幼児の養育期間が短くなり、子どもを多く作れるようになった。
身体を大きくすることで、脂肪を多くためこみ、脳が大きくなった。

そして、文化的な種として進化した。
構造的に明瞭な発音が出来るため言語が発達し、文化を通して革新する特性を得た。
それにより、身体も脳も大きなネアンデルタールを越えた。
文化的な革新は自然進化の速度を上回り、他の生物よりも早く環境に適応し、環境を変えられるようになった。

農業の発達により、より多くの食料を得られるようになり、人口が増加した。
しかし、単一の食物に依存するせいで飢饉による餓死のリスクが高まった。
また、必要な分だけしか働かない狩猟採集民に比べて労働量は増えた。
人口密度が高くなったことにより伝染病が発生するようになった。
人類全体としてはメリットが大きいが、個人に関しては必ずしも良いことばかりでないのが農業革命だった。

「産業革命」が起こった当初は、労働量の面では農業を営んでいた頃に比べ、むしろ増えていた。
しかし、テクノロジーの進化により、徐々に楽になって来た。
工業化社会が進むと、座っている時間の方が長い職業につく人が多くない、エネルギーを使わない生活が普通になってきた。

空腹感は太古の適応であり、食糧に困らない現代においても太古の環境に適応した人間の身体は変わっていない。
常にエネルギーを身体に蓄えようとし、それが2型糖尿病、心臓菅疾患、生殖器がんの原因となっている。

不要なものは無くそうとする廃用性も現代病の原因となっている。
骨粗鬆症、親知らず、アレルギー疾患である。
人間の身体は遺伝子と環境によって形作られるが、適度な環境からのストレスがないと発達しない器官もある。
硬いものを食べない生活になったため人間の顎の発達せず、親知らずがはえるスペースが無くなったしまった。

このようなミスマッチによる病を無くすには、いくつかの方法が考えられる。

1.問題解決を自然選択のふるいわけに任せる。
しかし、自然淘汰には万年単位の時間がかかる。

2.生物医学による研究と治療にもっと投資する。
ミスマッチ病の多くは予防が可能だが、実際には知識があっても予防ができていない。

3.教育して力をつけさせる。
私たちは知識があっても不合理な行動をとる傾向がある。

4.環境を変える。
政府や社会が健康的な生活を強制する。

したがって各個体の適応というのは、時々刻々と変化する果てしない妥協の連続の不完全な産物なのだ。自然選択は着実に生物を最適の方向に押しやるが、最適にはほぼ永久に達しえない。

狩猟採集民は主食作物に依存しないので、単純に別の食料に切り替えればいいだけだからだ。言い換えれば、農民は狩猟採集民よりずっと多くのカロリーを得ることができるが、その反面、旱魃や洪水や植物を枯らす疫病や戦争など、作物を根こそぎ、ときには瞬時にして壊滅させる定期的な災厄にずっと弱いのである。

人間の身体を進化論的な観点で見ることで、ある種の新しいものは進化的ミスマッチにつながりうるのだという認識を得ることはできる。過去数百万年の進化を経てきた私たちの身体は、現代テクノロジーの多くを扱えうようには適応していないー少なくとも、きわめて多くの量をきわめて上手に扱うのは無理な話なのだ。

もし文化的な進化が私たちをこのような混乱に追い込んだのなら、文化的進化は私たちをそこから抜け出させることもできるのではないか、ということだ。(中略)そのためには政府の力や、ほかの社会機関の力も必要となる。なぜなら私たちは、健康的な生活様式を自ら選びとるようには進化していないからだ。

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