アンドロイドの夢の羊

アンドロイドの夢の羊 (ハヤカワ文庫SF)「ロックイン」が面白かったので、同じ著者の本を読んでみることにした。
この本のタイトルは、ディック・ファンとしてはとても気になるが、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」とは、「羊」しか繋がりがなかった。
それでも楽しい冒険活劇で、スペオペが苦手な私でも、十分に楽しめた。
スコルジー独特のユーモアセンスに依るところが大きいと思う。

地球が大銀河連邦に参加したばかりの未来。
地球の地位はまだ低く、軍事的にはニドゥ族という宇宙人に半ば征服されているような状態だった。
ニドゥ族を憎む地球の外交官が、ニドゥ族の高官に対して暗殺を企てる。
この事件によって地球とニドゥ族の間には戦争勃発の危機となる。
戦争を回避するには、ニドゥ族の儀式で必要な特殊な羊を引き渡さなければならない。
その羊を探す密命は、エイリアンに不幸なメッセージを伝える専門家であるクリークに託される。
地球内部の複数の勢力と、ニドゥ族を交えた羊を巡る激しい争奪戦となる。

基本的なプロットは古いスペオペのようだが、楽しいアイディアがあふれていて飽きさせない。
まず、外交官がニドゥ族の高官を殺す方法がオナラなのである。
臭覚の発達したニドゥ族では、匂いがひとつの言語を構成している。
直腸に装着した装置により、ニドゥ族を罵倒するオナラを発し、相手を憤死させてしまう。

世界に暗躍する羊を崇める宗教団体は、売れないSF作家のホラ話を起源としている。
ホラを起源としても宗教は成り立つという、歪んだ発想だったが、預言通りの羊が出現してしまう。

その羊も普通の羊ではない。
ネタバレになるが、羊の遺伝子を持つ人間の女性であり、この小説のヒロインである。
ネタバレついでに言ってしまうと、クリークを支援する優秀なAIは、戦争で死んだ彼の親友を、高校時代にスキャンした脳のデータから再構成した擬似人格である。
まあ、ほとんど本人だけど。

ユーモラスだが説得力のあるアイディアてんこ盛りで突っ走る楽しい冒険活劇である。
こういうスペオペなら大歓迎だ。

「よう、ブライアン。会えてうれしいよ。」
「おれも会えてうれしいよ」ブライアン・ジャヴナが言った。「さて、ふたつほど教えてくれるかな。おまえはどうやってそんなに老けこんだんだ? それと、おれはおまえのクソなコンピュータのなかでなにをやっているんだ?」

ロビンはしばしクリークを見つめてから、声をあげて笑いだした。「ちょっと、ハリー。あなたと出会ってから、ひとつでも正気の沙汰と思えるようなことをしてきた? いまになってそういう質問をするのが、どんなにバカげたことかわかってる?」
「つまり返事は”イエス”だな」
「”イエス”だよ、あたしは命懸けであなたを信じてる。これまであたしのためになってきたし。だから話というのを聞かせて」
「じゃあ、まずでかい話からいこうかーきみは自分の国のトップなんだ」

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