ジブリの教科書 千と千尋の神隠し

ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し (文春ジブリ文庫)ジブリの作品を関係者の証言と様々な分野の著名人の想いで構成されているのが「ジブリの教科書」シリーズである。
前から気にはなっていたが、今回「千と千尋の神隠し」版が出たので読んでみることにした。
「千と千尋の神隠し」は面白いには面白いと思うのだが、日本一の興行収入となるほどの作品とは思えなかったからだ。
配給システムの裏話を読むと、なるほどと思えた。

冒頭の、作家・森見登美彦の分析が興味深い。
「千と千尋の神隠し」は、宮崎アニメにおける分岐点だと言うのだ。
それ以前の宮崎アニメは、エンターテイメントの文法に乗っ取って分かりやすく作られているが、「千と千尋の神隠し」以降は、イメージを優先して文法を無視している。
「千と千尋の神隠し」は、前半はいままでの宮崎アニメスタイルで、後半は新しいスタイルになっているという。
だから、物語としてはすっきりしないところがあるが、いつまでもイメージが心に残るのだという。

宮崎駿自身も、脚本は書かず、オチは考えないまま絵コンテを書いていると話している。
ハリウッドのような決まりきったパターンでは観客は楽しめなくなっている。
何よりも、作者自身が先の分かる物語を作るのは面白くない。
同じように考えるベストセラー作家も多い。
キャラクターが勝手に動く、ということなのかもしれない。

「千と千尋の神隠し」がここまでヒットした原因を、鈴木プロデューサーは、当時日本で流行りだしたシネコン方式にあると考えている。
配給会社よって上映する映画館で決まっていた護送船団方式と違い、シネコンではヒットすると即座に上映館を増やせる。
そのため、ヒットし始めた「千と千尋の神隠し」は、更に上映館を増やし、興行収入が増えていったようだ。
しかし、そのため、本来上映されるはずだった多くの映画が陽の目を見ないことになってしまった。
そのことを反省した関係者は、「千と千尋の神隠し」以後は、闇雲に上映館を増やさないことにした。
従って、今後は「千と千尋の神隠し」のようなヒットが生まれる可能性は低い。

様々な分野の人が様々な分析をしているが、森見登美彦以外は、やはり当事者の話が一番面白い。

「千と千尋」は1年のロングランの末、観客数2350万人、興行収入304億円という日本記録を作ることになります。
ただし、この結果には功罪両方の側面がありました。「千と千尋」がスクリーンを寡占したことによって、他に当たりそうだった映画は軒並み割りを食ってしまったのです。その事態を重く見た日本の映画興行界では、以降「千と千尋」のようなメガヒットを出すまいという空気が支配的になっていきます。振り返ってみると、本当の自由競争が行われたのは、この一瞬でけでした。大ヒットの背景には、時代の端境期にたまたま巡り合わせたという幸運もあったんです。

もちろん理屈で作ることもできますよ。ここに悪役を設定して、コイツが主人公で、ここで山場を作って、ここでグッと一回沈めてバネを貯めて、ここで一気に爆発させてカタルシスのあるハッピーエンドに持っていくんだっていう。そんな骨法なんで誰でも語れますよ。「カリオストロの城」なんか、典型的な枠の中にピタッとはまるように作ったんです。あの時はそういうクラッシックなことをやろうとしたんです。今もそういうこともできるんですよ。できますけど、それはもうおもしろくないんですよ。作る側だけじゃなく、見る方ももう飽きているんじゃないかと思うんですけど。そういうものが完成して1つの文体になった瞬間に、つまらなくなるんですよ。

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