紙の動物園

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)遠い未来を描いたSFと過去を舞台にしたファンタジーが混在する短編集。
中国系アメリカ人の作者なので、中国人やその歴史を背景とした話が多い。
表題作は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞をトリプル受賞したSFというより悲しいファンタジー。

15もの短編が収録されているので、すべての解説をするのは厳しい。
主なものに簡単にコメントすると次の通り。

紙の動物園
紙で作った動物に命を引き込める母親とその息子の話。
中国から逃げてきた女性とその息子の悲しいすれ違いが描かれている。

もののあはれ
地球滅亡を迎えた世界で、日本人独特の利他主義がテーマである。
日本人が読むと、少し微妙な気がする。

月へ
ファンタジーを使って難民認定の問題を扱っている。

結縄
縄を使った言語を持つ少数民族と、その技術を新薬開発に利用しようとする科学者の関係が描かれている。
科学者は悪人ではないのだが、先進国の奢りからは抜け出せない。

太平洋横断海底トンネル小史
日本とアメリカを海底トンネルで繋ぐ工事を担当した中国人の視点で語られる。
太平洋戦争が無かった世界を描くパラレルワールドSFである。
戦争が無かったとしても、後進国は先進国の犠牲になってしまっている。

潮汐
水没しつつある世界で、それでも地球に残る父親と娘の物語である。
とても短い話だが、ラストの仕掛けには驚く。

心智五行
体内の細菌が、人間の感情にも影響を与えているという話。
細菌を減らす方向で発達した先進的な世界に住む女性が、彼女たちから見ると未開の種族である、細菌と共生している世界の男性に惹かれる恋愛小説になっているのが良い。

良い狩りを
少し前の中国を舞台に妖怪ハンターものとして始まり、最後はスチームパンクになっている。
ロボットの変形もあり、サービス精神満載な作品である。

全体的に静かで、悲しい話が多い。
中国やアジアの過去の歴史を舞台にしたファンタジーもあれば、最新科学を背景としたSFもある。

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