「オービタル・クラウド」の藤井太洋のデビュー作。
Amzon Kindleで自費出版したものがヒットし、紙の本になった作品である。
新しい作家デビューの形だと言える。
すべての作物の遺伝子が人為的にデザインされる時代、改変された遺伝子の謎を追うサスペンス小説。
技術的な設定が細かく、リアルな未来世界が描かれている。
バイオテクノロジーが進化し、すべての作物が遺伝子的にデザインされるようになった未来、主人公は作物に企業ロゴを描かせるようなコードを記述するデザイナーである。
彼がデザインした作物に異常な変異が発生し、その原因を追求することになる。
その背景には、驚くべき陰謀があった。
あらすじを書いてしまうと、どうということのない話だが、この小説の面白さは、緻密な技術的書き込みにある。
中心となるのはバイオテクノロジーと拡張現実だが、その説明がとても詳細で、リアルだ。
デザインされた生物の遺伝子に、取扱説明書であるreadmeや開発キットが残っていたりする。
生物とプログラムの境界が曖昧になっている未来の世界が、現代のシステム開発の手法を取り入れることで説得力のあるものになっている。
仮想現実の利用方法も面白い。
日常生活に仮想現実が深く入り込んでいるため、何が現実か曖昧になっており、複数の世界を行き来するファンタジーのようになっている。
仮想現実を使って障害を克服したキャラクターも出て来るが、脳を分割して利用できるイルカのような存在に進化している。
現在の技術のディテールを取り込むことによって、未来をリアルに表現する新しいタイプのSFである。
それゆえ、陳腐化する可能性も高い。
しかし、いま読む分にはとても面白い。
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