ゼノサイド

ゼノサイド(上) (ハヤカワ文庫SF)「エンダーのゲーム」「死者の代弁者」に続く、オーソン・スコット・カードの「エンダーシリーズ」3作目である。
「死者の代弁者」を読んだのは30年以上前だが、本作を読み始めるとすぐに、「エンダーシリーズ」の世界に戻ることが出来た。
さすがはSF界有数の語り部である。

カードは読ませる作家ではあるが、アイディアとしてはたいしたことがない、と思っていたが、本作を読んでイメージが変わった。
人類と他の知的生命との関わり方について、倫理的に追求しているというのは面白い。
ただ、光速を超える移動を可能にするための宇宙観には、ついていけなかった。

「エンダーのゲーム」では、天才少年エンダーは、ゲームだと思わされていた戦闘に勝利した結果、昆虫のような知的生命を絶滅の危機においやることになる。
「死者の代弁者」において、贖罪を求めて彷徨うエンダーは、死ぬことによって植物として再生する異星人の友人を、その求めに応じて殺害することになる。

「ゼノサイド」は、「死者の代弁者」の続きになる。
「死者の代弁者」でエンダーが妻を得て生活することになった惑星には、あらゆる生命に寄生し、驚くべき速度で変異するウィルスが存在した。
その惑星に元々存在した生命以外は、ウィルスに対抗する薬を飲まない限り、死に至ることになる。
その薬さえも、ウィルスによって無効化されるので、常に新しい対抗策を打たなければならない。
ウィルスの拡散を恐れた人間側の帝国は、ウィルスを惑星ごと破壊するために艦隊を派遣した。

問題は、このウィルスがなければ、惑星の知的生命体が死んで、植物に再生できないことである。
また、ウィルスそのものが知的生命である可能性さえある。
エンダーとその新しい家族である科学者、宗教家たちが、どの生命の生存を選択すべきかという倫理的課題を、それぞれの立場で追求することになる。
さらには、エンダーに協力する人工知能は、光速を超える通信網を通じて全宇宙のコンピュータに接続されており、これも知的生命と考えることができる。
その存在が、人類側に知られることで、彼女も生存の危機にさらされる。
各知的生命の立場、人類側のそれぞれの立場で、正解が難しい問題と対峙することになる。

もうひとりの主人公は、中国のような社会で神に仕える少女と、その召使の少女である。
その世界では、神に使える人々は、神からの試練を引き受ける代わりに、神の言葉を民衆に伝える特権的立場にある。
彼女は床の木目を数え続ける、という試練が与えられる。
帝国から彼女へ、行方不明の艦隊の調査が依頼される。
聡明な彼女は、エンダーの友人である人工知能の存在に近づくことになる。
しかし、それは、彼女たちの存在そのものの秘密が暴かれる原因にもなる。

読ませる1冊だった。

[amazonjs asin=”B00YGIKEZI” locale=”JP” title=”ゼノサイド(上) (ハヤカワ文庫SF)”]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です