偶然の聖地

最初は秘境冒険ものかと思ったが、読んでいるうち段々とSFになっていった。
キャラクターが多く、時系列が入り混じって分かにくいのだが、後半でこのような構成になっている理由が判明する。
面白い視点の不思議な作品だった。
いまの日本のSF作家は、実験的な試みをしつつエンターテイメントとして楽しめる作品を作る人が何人もいるので、頼もしい。

最初は、世界を放浪する若者の体験記風の雰囲気で始まる。
次に、まぼろしの山を目指す日本人の視点で語れら、彼の周囲で起こった殺人事件を追う刑事が登場し、なぞの団体の葬式が執り行われる。
キャタクターや時代が入り組み、わかりづらい。
複数の物語が錯綜していることに意味があることが、後半で判明する。

「世界医」が登場してから、俄然SFらしくなる。
ここからは、ネタバレになる。
「世界医」は、世界の間違い(バグ)を修正する秘密結社である。
この世界は、神(らしきもの)が発注して作ったプログラムで出来ており、あちこちにバグがある。
バグの結果として、物理法則などに反した現象が発生する。
それらをデバックするのが、「世界医」の仕事である。
ちなみに、デバック・モードに入ると、世界の時間が止まる。

世界の構造とデバックを説明するにあたり、オブジェクト指向プログラミングの考え方が使われる。
オブジェクト指向プログラミングでは、クラスを元にクラスを作る時に機能を継承するので、元のクラスを消すことができない。
多くの物語が登場し、関係しているのは、元の物語や登場人物をデバックで消されることがないようするための防衛策だったのだ。

最後は最大のバグであるイシュクト山をめぐり、バグを消したい側とバグを残した側の戦いになる。
戦いといってもやっていることはデバックなので、描写としては良くわからない。
結果としては、ハッピーエンドだった。

「この世に残された、最後の特Aランクのバグーそう言えばわかるな」
「イシュクトですね」

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