この本では、民主主義がいかに脆弱か、そしてその民主主義を守るためには、憲法などのシステムだけではダメなことが説明されている。
多くの事例をもとに解説しているが、考え方はとてもシンプルだ。
その危機感は共感するが、解決方法については、納得できないところがある。
民主主義では、選ばれた代表の暴走を抑えるために、憲法、議会、裁判所及び報道機関が存在している。
しかし、ヒトラーの例を出すまでもなく、このシステムによって独裁者の出現を必ずしも阻止できるわけではない。
大衆扇動家は、民衆をコントロールし、合法的に独裁者が生まれる環境を作り出せるからだ。
これが、民主主義の抱える根本的な問題である。
本書では、それに対して政党の指導者が独裁者を排除し、民主主義を守るべきだと主張している。
アメリカでは一時この方法が機能し、何度か独裁者の出現を阻止したらしい。
しかし、民衆が愚かだからといって、一部の政治的エリートが最後の砦になる、という考え方には納得がいかない。
実際、トランプの出馬を止めることができなかった。
トランプの1年目に書かれたであろうこの本を、トランプの二期目の敗北時に読むのは味わい深い。
しかし、この本で予言されているように、トランプがいなくなってもアメリカの分断がなくなるわけではない。
憎しみ合うまでになった2つの政治体制が、宗教的文化的に異なるモノになってしまっている現状は恐ろしい。
黒人に市民の自由と選挙権を与えることは、南部の民主党支持者の多くにとって根本的な脅威だった。だからこそ、それらの問題の棚上げを決めた両党の合意が、相互的寛容を取り戻すための土台となった。アフリカ系アメリカ人からの選挙権の剥奪によって、南部における白人至上主義と民主党の独裁は保たれ、それこそが民主党が全国的な力を維持するための後ろ盾となった。
政治学者アラン・アブラもウィッツが指摘するように、1950年代には白人既婚者キリスト教徒がアメリカの有権者の圧倒的多数(80%)を占め、民主党・共和党の支持が半々に分かれていた。しかし2000年代に入ると、既婚の白人キリスト教徒の割合は有権者の40%ほどに下がり、その支持政党は共和党に集中するようになった。言い換えれば、二大政党はいまでは「人種」と「宗教」によって区別されているということだ。申告な二極化の原因となるこのふたつの問題は、税金や政治支出などといった伝統的な政策課題に比べて、より不寛容と敵意を生み出しやすいものだった。