闇の自己啓発

読書会の記録という形が、大学時代にやっていた読書会が思い出されて、懐かしく感じた。
ただ、読書会という性質上、話があっちこっちに飛んでしまう傾向がある。
ソラリス、エヴァ、ハーモニーなど、知っている映画や小説がよく引用されていて楽しい。
やたら注釈が多いのも、士郎正宗のマンガのようだ。
理解しきれないところもあるが、少しダークな現代思想のガイドブックというところか。

本書は、3つの「闇」で構成されている。

最初は、「闇の社会」で、テーマは「ダークウェブ」と「中国」である。
「ダークウェブ」は、児童ポルノやスナッフフィルムの話が中心だった。
「中国」では、「功利主義」の「最大幸福原理」から「墨子」の「有能者による支配」につなぎ、この「統治功利主義」が中国が監視社会を受け入れる土台になっているのではないか、と展開しているのが面白い。
「天理」思想の「公共性の追求」が、やがてAIによる支配となるかもしれない。

次の「闇の科学」のテーマは、「AI・VR」と「宇宙開発」。
ちなみに、この章の課題図書は両方とも読んでいるのだが、あまり覚えていない。
「AI・VR」では、物質世界は「データ」の幽霊に過ぎない、という発想から、データこそが「イデア」となる、という思想にたどり着く。
LSDによる主体の変容により新しい共同体への変更を目指す「アシッド加速主義」というのも面白い・

「闇の思想」のテーマは、「反出生主義」と「アンチソーシャル」である。
このような思想があるとは知らなかった。
「反出生主義」とは、「生まれなかったほうが良かった」という考え方である。
「死」は「悪」であり、確実に「死」に向かう「生」もまた「悪」である。
「アンチソーシャル」は、ゲイなどの「クイア」によるマジョリティとの戦いのように読み取れた。
再生産を絶対とするLBGTへの差別に対する抵抗運動のようだ。

分からないところも多いが、なんとなく怪しい思想は、むかしの「ニューサイエンス」のようで、ちょっと楽しい。

木澤
たとえばAIのアルゴリズムって内部がブラックボックスになっていて、どうしてその結果が出力されたのか外側にいる人間にはわからないって言われますけど、中国ではそういった一種の超越的な不可知論と「公共性」概念として重視されている儒教の「天理」概念が癒着した形で結びついている、という指摘は面白いですね。万物=自然を通底して支配する超越的な法則としての天理=AIアルゴリズム、というか。

木澤
いちおう自分の問題意識にひきつけて少し補足してくと、「アンチソーシャル的転回」の核心にあるのは「(再)生産性」に対する異議申し立てではないかと思っています。(中略)
中絶を肯定し、再生産に反対し、未来に反対し、したがって生に反対する者、それはクィア、それこそがクィアだ、というわけです。異性愛規範にもとづく現行社会秩序が暗黙のうちに強要する規範としての「再生産」に抗い。「死の欲動」を積極的に担う者たち。

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