夕暮れをすぎて

夕暮れをすぎて (文春文庫)実にキングらしい短編集である。
バカバカしいアイディアを、強引な文章力で乗り切っている。
昔懐かしいキングの復活か?

元々、キングの小説は、使い古されたアイディアをベースにしている。
「キャリー」「ファイアスターター」は超能力少女、「呪われた町」は吸血鬼、「シャイニング」はお化け屋敷である。
また、バカバカしい設定も多い。
「クリスティーン」は生きている車だし、「クジョー」に至っては狂犬病の犬が襲って来るだけである。

そんなネタを、濃厚で執拗な表現で、強引に読ませてしまうのがキングのスタイルだった。
大御所になったせいか、歳を取ったせいか、この頃のキングは分かりにくかった。
しかし、この短編集は違う。
シンプルで、マヌケとさえ言えるアイディアを、真剣に、パワフルに描き切っている。
かつてのキングの復活を思わせる。
そうは言っても、初期の作品を読んだ時ほどの興奮はなかったのは残念である。

「ウィラ」
トワイライトゾーンを思わせる幽霊話である。
わりと早くネタをバラしても走り続けるのがキングらしい。

「ジンジャーブレッド・ガール」
子供を亡くした悲しみを忘れるために、走ることに目覚めた女性が、無人島に近い島で、殺人鬼に追いかけられる。
それだけの話である。
それを中編に仕立て上げるのは、流石である。

「エアロバイク」
キングにかかると、エアロバイクでさえもダークファンタジーの道具になってしまう。
こんなものまで主題にしてしまうとは、人食い洗濯機を描いたホラー作家は、健在である。

「彼らが残したもの」
キングなりの9.11事件に対する回答である。
9.11事件で偶然生き延びた男の部屋に、事件で死んだ同僚達の遺品が現れる。
まさか、感動的な最後になるとは思わなかった。

他にも、「ハーヴィーの夢」「パーキングエリア」「卒業の午後」という短編が収録されている。

次はキングの新作「悪霊の島」だ!
これは、正当派のホラーらしい。
しかし、上下巻で1,000ページ以上。
持ち歩くにも重い。

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