フィッシュストーリー

フィッシュストーリー (新潮文庫)小説の1節が過去と未来を繋ぐ、控えめな正義を語った表題作を初めとする中編4つの作品集。
作品の発表時期に隔たりがあり、初期よりも現在の方が断然巧くなっているのが感じられる。

「動物園のエンジン」
動物園に居るだけで、動物園の雰囲気を変えてしまう元職員と、市長の殺人事件を絡めた話。
何を描きたいのか、私には全くわからなかった。

「サクリファイス」
横溝正史を思わせる伝奇ミステリー。
山村の奇習がテーマになっている。
一応、どんでん返しがあるのだが、やっぱりピンとこなかった。

「フィシュストーリー」
「フィシュストーリー」とは、ほら話の意味らしい。
『僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない』
という書き出しで始まる小説を巡って、複数の時間で物語が展開する。
テーマは、正義と勇気。
世界平和のような大それたものではなく、人を助ける、ちょっとした勇気である。
それが、やがて世界を救う。

なんと言っても一番のお気に入りは、瀬川である。
瀬川は、不本意ながら、正義の味方となるよう親に育てられた。
そして、機会が訪れた時、飄々とその能力を発揮する。

最後のレコーディングで作られた楽曲の空白が、レイプを未遂に終わらせ、その結果正義の味方が救った女性が、世界をテロから救う。
わらしべ長者のような話である。

「ポテチ」
冴えない空き巣とその彼女の、ちょっと泣かせる物語である。
忍び込んだ家でのんびり「タッチ」を読み始め、続きを本屋で立ち読みする主人公の今村のキャラクターが良い。
行きがかり上今村と同居しているが、実は浮気をしている気の強い彼女もいい。
全てのキャラクターが生き生きと描かれている。

ポテトチップの塩味とコンソメ味の取り違えが、深い意味を持っていることは、迂闊にも、解説を読むまで気づかなかった。
のんびりとした話のようでいて、ほとんどが伏線になっている隙のない構成は流石である。

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