虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)タイトルから「ソウ」のような拷問ポルノかと思ったら、全然違った。
非常に真っ当なSF小説だった。
作者が若くして亡くなったのが悔やまれる。

主人公は米軍の暗殺チームの一員である。
世界中で紛争が起こっている時代、プロの暗殺集団である彼らは第一レイヤーと呼ぶ紛争の首謀者を暗殺する。
紛争地域に出没するあるアメリカ人が、暗殺チームのターゲットとなるが、決して捕まることがない。
そのアメリカ人の目的は、紛争を引き起こすことだと判明する。
彼の言うところの「虐殺の文法」を使って。

始めに惹かれるのは暗殺部隊の装備である。
地上へ降下するポットは、表面が人工筋肉で出来ており、凹凸を微妙に変化させることで空気抵抗をコントロールし、着地後は腐って土に還る。
なかなかサイバーで、カッコいいアイテムだと思う。
しかし、これがトラップで中盤から人工筋肉が大きな意味を持つことになる。

頭脳がモジュール毎に機能が特定された世界において、どのモジュールが機能していれば意識があることになるのか?
現在の脳死より難しい問題である。
薬品で脳の一部の機能を止めて、セラピーによって倫理観を抑制されて状態での殺人は、罪になるのか?
科学の進歩を見据えた社会的、倫理的問題を扱った、正当なSF小説である。
こんな小説を日本人が書いたとは驚きである。
作者名を見なければ、翻訳だと思うに違いない。

この物語のテーマは贖罪である。
謎のアメリカ人は、死んだ家族のために、どんな手段を使ってでもアメリカを守る選択をした。
「虐殺の文法」の謎を解いた後、主人公は別の選択をする。
救いはないが、気の利いた終わり方だと思う。

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