ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)「虐殺器官」の伊藤計劃による「虐殺器官」の続編にして遺作である。
医療技術の進んでユートピアに潜む問題を描いている。

「虐殺器官」の最後で暗示されていた大惨事により、人類の人口は激減した。
その結果生まれたのは、体内にモニターを埋め込み常に健康をチェックし修復する、老衰以外では滅多に死ぬことのないユートピアだった。
人間は貴重なリソースとして扱われ、自殺は重大な反社会的行為として忌避される空気が作り上げられていた。
善意を押し付ける「やさしい社会」に耐え切れなくなった主人公達女子高生3人は、自殺を試みるが・・・

伊藤計劃の作品を読むと、SFがまだ生きていることを実感出来て嬉しい。
最新の科学知識を元に、現代を延長して緻密に構想された社会、その社会の中で倫理的に葛藤する人間たち、SFとして必要なこの要件を見事に小説としている。

この作品を最後に病死した伊藤計劃の最後の作品が、医療的ユートピア小説というのは皮肉な話だと思ったが、誰よりも真剣に健康について考えただであろう作者だから、不思議のない選択だったのかもしれない。

作者は人物の造形が得意ではないと言っている。
しかし、不健康なため違法となったタバコを求めて、紛争地域を渡り歩く主人公は、十分に魅力的なキャラクターである。

本書を読んでいると、なぜHTML形式を真似て記述しているのか疑問に思う。
最後まで読めば、なぜこのように書かれたのか、その理由がはっきりする。
この文書を読むべき対象は、現代の我々ではないのである。
意識至上主義を当たり前と思っている我々には、衝撃的な結末である。

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