風の中のマリア

風の中のマリア (講談社文庫)ハチを主人公とした物語というと「みつばちハッチ」や「みつばちマーヤ」を思い出す。
同じハチを主人公にした物語でも、「風の中のマリア」は遥かにシビアだ。
オオスズメバチ「マリア」の日常がリアルに、生き生きと、そして感動的に描かれている。

戦士であるマリアの日常は、戦いである。
「みつばちハッチ」のように他の昆虫と会話が出来るが、基本的に敵と獲物しかいない。
のんびり話が出来る相手は、獲物としては食べにくい虫ばかりだ。

アリやハチは、人間とは異なる社会を形成する興味深い生物である。
女王のみが子どもを産み、他のメスたち(ワーカー)は、子どもを産むこともなく、自分の属する巣のために一生働き続ける。
男女一対で家庭を作り、子どもを育ている一般的な形態を持つ人間から見ると、不思議な生き方である。
そんなスズメバチが、何を信念として生きているのか、当然想像ではあるが、とてもリアルに描かれている。
そして、そのバックボーンには、最新の遺伝子理論がある。
なぜ、自分で子どもを産まず、女王の産んだ妹を育ているのか?
なぜ、無精卵を産むようになった女王を殺すのか?
遺伝子の生存戦略から説明されている。

スズメバチ日々行う戦闘の描写が凄まじい。
場合によっては大型哺乳類さえも殺傷するスズメバチは、強力なアゴと毒針を武器に、硬い外殻を守りに昆虫最強を誇る。
獲物の少なくなる秋口に行われる、他のハチの巣の略奪は圧巻である。
サイズではスズメバチの方が大きいが、数では絶対的に劣っている。
スズメバチ一匹あたり数十、数百の敵を倒さなければならない。
本能的に虐殺モードに入ったスズメバチは、敵の体液を身体中に浴びながら、敵の死体の山を作っていく。

たった30日の寿命を駆け抜けたスズメバチの戦士「マリア」の真っ直ぐな生き方は、人間から見ると驚くほど異質で、そして感動的である。

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