悪について、真っ向から科学で挑もうという冒険的な著作である。
結果的に、宗教的な方向になってしまっているのも、仕方ないのかもしれない。
科学が避けてきた「悪」と言う倫理的問題について、心理学の分野からアプローチしている。
著者の考える邪悪とは、以下のようなものである。
邪悪性とは、自分自身の病める自我の統合性を防衛し保持するために、他人の精神的成長を破壊する力を振るうことである、と定義することができる。
簡単に言えば、これは他人をスケープゴートにすることである。
確かに意思決定の基盤に科学を置く場合、「悪」の問題は避けられなくなる。
このアンタッチャブルな課題に取り組んだ姿勢は評価出来るが、最終的な結論がキリスト教的過ぎるのが残念だ。
簡単に解決出来る問題ではないので、仕方ないとは思う。
精神分析医である著者の、実際の診察風景が赤裸々に語られている。
本来中立的であることを求められる精神分析医でも、好きになれない、相手もしたくない患者が少なからず存在するという告白は面白い。
人間なのだから当然なのだが、職業の持つオーラが、聖人のようなイメージを与えてしまっているのだろう。
しかし、「悪」を科学的に判別出来てしまう世界も、やはり恐ろしいと思う。
[amazonjs asin=”4794218451″ locale=”JP” title=”文庫 平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫)”]