大江戸しあわせ指南

大江戸しあわせ指南―身の丈に合わせて生きる (小学館101新書)時代劇のファンなので、江戸時代の長屋は一度は行ってみたい場所である。
ドラマや小説からの偏った情報しかないので、江戸時代にはまるで理想郷のようなイメージがある。
実際にはそんなことはなかったはずだが、この本を読んで、ますます江戸時代に対する憧れが強くなった。

江戸時代の人々の基本は、あるもので楽しく暮らす、だったようだ。
大量生産大量消費が良しとされる現代では、失われてしまった感性である。
しかし、リソースの限られた地球に住んでいる以上、江戸時代の人々の方が正しいと思える。

ものが無いから、ほとんどのものを修理し、再利用する。
糸は貴重だから、町の人々はほとんど古着である。
着物は、他の人が着るのを前提に、仕立て直し易い構造になっているらしい。

貧乏臭いように思える江戸の町だが、当時世界一の上水道設備を誇っていた。
そして、下水道関係、つまり糞尿は金儲けの手段にもなっていた。
住民の糞尿を農家に販売するのが、大家の特権だったのだ。
現代では巨額のコストをかけて処理している糞尿は、近隣の農家の肥料になり、出す側の利益にさえなっていた。

当時の江戸は、世界有数の巨大都市であるにも関わらず、治安維持にあたる人員はとても少なかったようだ。
大家を始めとする民間側で日々の管理運営をしているので、処理しきれない分だけを役所に回していたので、少人数での対応が可能だったようだ。

小資源でエコな上に行政コストも小さい江戸時代は、現代の我々が学ぶべき形態だと思う。

大家さんが下請けしていた行政の仕事は広い範囲にわたっていて、不動産売買証書の裏書き、自殺者や行き倒れ、捨て子の処理、箱根の関所を越すための「関所手形」の発行など、いまならば正規の公務員のやるべき業務が多かった。
こんなことまで大家さんにやらせたのだから、町奉行は民間の手に負えない事件や案件だけを処理すればよく、わずかな人数で運営できたのだ。そのため江戸の行政費は安く、裏長屋の住民たちは、税金とは無縁の暮らしをしていたのである。

下肥の所有権は「製造者」にありそうだが、実際は一戸建てに住んでいる人と集合住宅である長屋とで違っていた。一戸建てでは、そこの住人に権利があったから、任意の農家と契約して現金あるいは一定量の農作物と交換で掃除を任せた。
だが、江戸の庶民の60パーセント以上が住んでいた長屋では、惣後架、つまり共同便所に溜まった下肥の所有権は大家にあった。大家は、住人の数に応じた金額を年末に受け取るのが普通で、40人ぐらいなら年間2両。江戸の大工の月収程度だったそうだ。

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