ヴァルカンの鉄槌

ヴァルカンの鉄鎚 (創元SF文庫)多作だったディックにおいて、日本で翻訳された最後の作品である。
パルプマガジンに書き散らしていた頃の、チープで分かり易いSFだと思う。
ディックにしては珍しく、ビックリするようなどんでん返しがあり、派手なアクションシーンも多い。
哲学的な深みや自己の存在に対する苦悩はないが、楽しめるエンターテイメントになっている。

大戦後の未来、人類はひとつの国家に統一されており、政治的な決定は万能のコンピュータが行っていた。
しかし、コンピュータによる支配に反抗する宗教団体のテロが頻発していた。
政府の役人がテロで殺されるところから物語は始まる。
コンピュータと会話できる唯一の人物である連邦統括弁務官ディルは、すべての権力を掌握していたが、自分のポジションを狙う同じ組織の人間も含め、誰も信じられない孤独な存在だった。
ディルがテロリストのリーダーの娘を捕獲するとほぼ同時に、彼とともに世界をリードして来た一世代前のコンピュータが破壊される。
北米を担当するバリス弁務官は、殺された役人の妻と接触し、ディルの行動に疑問を感じ始める。

世界的な危機が、相変わらず小ぢんまりとした集団の中で展開する。
ただ、今回は宗教団体の背景に驚くべき秘密が隠されていた。
このようなどんでん返しは、ディックの作品には珍しい。

ディックの映画は、ハリウッドで映画化されることが多い。
もともと地味な作品が多く、気の弱い主人公ばかりなのに、ハリウッドで映画になるとヒーローが活躍するド派手なアクションになってしまうので、ファンとしては違和感があった。
しかし、この作品では政府軍のロボットとテロリストの間での戦闘シーンが多い。
映画向けの素材ではないかと思う。

何でも答えを知っている「サイコパス」のシュビラシステムのようなコンピュータへの情報伝達が、パンチカードを使って行われるのはご愛嬌である。

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