マンモスのつくりかた

マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)古代の生物を蘇らせる方法について、科学的な可能性だけではなく、その目的や影響について語られている。
著者は絶滅した生物の復活を目指す生物学者なので、生物科学の最前線の雰囲気を味わえる。
また、急速に進む科学の社会的、倫理的問題を考えさせられる。

絶滅した生物の復活というと「ジェラシックパーク」を思い出す。
実際、この本の中でも何度か「ジェラシックパーク」が引用されており、その誤りに苦言を呈していることろもある。
絶滅してしまった種を蘇らせることを、この本では「脱絶滅」と呼んでいる。
日本語としては、ちょっと語感がよろしくない。

脱絶滅のためには、まず種を選択しなければならない。
脱絶滅させる理由が必要になる。
著者の考える一番の理由は、生態系の多様性を取り戻すことだ。
ある生物の絶滅により生態系が壊れることがある。
その生物を復活させることで、生態系を復活させることを目指す。
そうは言っても、一般大衆を味方に付けるには、生物の見た目も重要なようだ。
その点、マンモスなら全く問題ない。

次に、保存状態の良いサンプルを見つけなければならない。
しかし、DNAは時間による劣化が激しく、無傷のDNAを発見するのは難しい。
著者の意見では、そのまま使える古代生物のDNAを見つけるのは無理なようだ。

サンプルを見つけたらクローンを作製する。
クローン羊を誕生させたのと同じ方法である。
復活させたい動物に似た動物の卵子にDNAを挿入し、代理母の腹で出産させる。
しかし、この方法を成功させるほど状態の良いDNAは発見されていない。

交配で戻すという古典的な方法もある。
復活したい種に似た種の中から、復活させた種に似た特徴を持った個体を選び出し、掛け合わせることで復活した種に近づける方法である。
人間が古代から家畜や作物に対して行っている方法だ。
問題は、この方法はとても時間がかかる。
特に象のような寿命の長い生物が相手では。

最後の方法は、ゲノムを復元する方法である。
発見されたゲノムの使えるところを繋ぎあわせ、足りないところは現存種のゲノムで補完する。
この方法が一番現実的なようだが、復活させたい種のゲノムがどの程度含まれれば本物と呼べるのか、という問題はある。

脱絶滅の次の手順は、数を増やすことだ。
そして、最終的には野生環境に放つ。
人間に育てられた動物を野生に適応させるのも大変だが、存在しなかった種が環境に与える影響もよく考えなかればならない。
脱絶滅に関する法律は未整備である。
しかし、技術的に可能であり、いつの日か脱絶滅は現実となるのだろう。

わたしの考えでは、種の復活ではなく生態系の復活こそ脱絶滅の真価だと言える。わたしたちはどんな形の生命をよみがえらせるかではなく、どんな生態学的な交流を復活させたいかという観点で脱絶滅を考えるべきだ。既存の生態系から何が失われているのか、それが回復可能なのかを問わなくてはならない。脱絶滅はいわば、進化によって誕生したはいいが残念ながら失われてしまった種をモデルに用いて生物を創造する綿密な生物工学プロジェクトなのだ。

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