物語ること、生きること

物語ること、生きること (講談社文庫)「どうやったら作家になれますか?」という質問に答えるために、上橋菜穂子が半生を語った自伝である。
子供の頃に影響を受けたものから、文化人類学と作家の二足のわらじを履くことになった経緯が、柔らかい語り口で書かれている。
プロの作家は物語が降ってくるのを待っている、というのも興味深い。

彼女に影響を与えた最初の人は、語り部だったおばあちゃんだったようだ。
おばあちゃんの語る昔話は、むかしながらの口伝であり、日常と物語の間を行きつ戻りつする体験をさせてくれるものだったようだ。

少し成長すると、遠きものへの憧れとして、考古学に興味を持ち、近所の洞窟の探検などをしていた。
大学で史学を専攻しようと考えていたが、語学のハードルが高そうなので挫折し、その結果文化人類学に興味を持つようになった。
本来臆病な自分に鞭打って、ホビットのように「その一歩を踏み出す勇気」を持って、現地調査に出かけた。
沖縄やオーストラリアのアボリジニでのフィールドワークが、作品にも生きている。

20代で作家デビューしたが、文化人類学者としてのフィールドワークも続けていたようで、作家としての収入が研究費の補填となっていたらしい。

彼女の半生を知るのも楽しいが、プロの作家というものは、理屈で物語を考えるのではなく、インスピレーションに依存しているというのは興味深い。
スティーヴン・キングも宮﨑駿も同じようなことを言っていた。

私にとって物語というのは、それ自体が野生の獣のように、いきいきと命を宿し、呼吸しながら、作家自身でさえ最初は予想もしなかった新しい地平へと連れていってくれるものなのだと思います。

はるか、文字すらないむかしから、人はたくさんの物語をつむいできました。
プロットを立てて、物語をどうやって組み立てるのか、そういう「物語の方程式」を教えることは簡単です。でも方程式どおりに組み立てた作品は、だいたいがありがちな展開、ありきたりの物語に堕ちてしまいます。プロの作家は、反対に、お決まりの方程式をいかに外すかを必死で考えているものです。

[amazonjs asin=”4062933381″ locale=”JP” title=”物語ること、生きること (講談社文庫)”]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です