マネー・ボール

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)映画にもなった有名な本である。
アメリカの大リーグの貧乏チームを舞台にしたノンフィクションなのに、ビジネス書としてよく紹介される。
読んでみて、理由がよくわかった。
数字で価値を評価し、シビアに運営する経営者の姿を描いた作品なのだ。

野球に科学的手法を取り入れた、というので、頭脳野球のようなものかと思っていた。
科学的方法で野球をうまくなって、みんなで優勝を目指そう、みたいなものを想像していた。
予想はまったく裏切られた。

本作の主人公は、大リーグの貧乏チームのジェネラルマネージャーである。
少ない予算をやりくりして、金持ち球団に勝利しなければならない。
そのために彼が取った方法は、他の球団が価値を見いだせない選手を安く買い入れ、活躍させた上で高く売る、という方法である。
そこには、チームみんなで頑張ろう的な熱血要素はまるでない。
ウォール街の株取引のように、選手を売り買いする。

しかし、とても面白い。
主人公のGMは、他の球団やスカウトと違い、見た目や一般的な評価項目は信じず、出塁率を基本に考え、他球団が見向きもしない選手を安く買い入れる。
そして、詐欺師のような交渉の上手さでトレードを勝ち抜く。
彼の戦場は、球場ではなくトレードなのだ。

IT化により、今後ますますデータによるスポーツの評価は盛んになると思われる。

なんなら、平均よりちょっと上の実力を持つ投手にクローザーをまかせ、セーブポイントをたっぷり稼がせて、高く売り払うことだってできる。株を買ったあと、偽情報で相場を吊り上げて売却し、たんまり利ざやを稼ぐ、というのと実質的には同じ構図だ。ビリー・ビーンはこの手を2回使った。今後まだまだ使い続けられると思っている。

初夏に入るころ、市場はビリーにとって1年でいちばん活動しやすい状態になる。成績不振の球団が望みを捨てる。望みを捨てると、コストを削減したくなる。コストを削減したくなると、選手を売りに出す。供給がだぶつき、値段が下がる。開幕時にはとうてい替えなかった選手が、買えるようにある。トレード期間終了の2週間前、ビリー・ビーンは、廊下をはさんで向かい側にあるポール・デポデスタの仕事部屋に言って、「そろそろ”くたばれAトレード”を始めよう」と言う。”くたばれAトレード”とは、他球団が「くたばれA(=アスレチックス)め!」と思わずつぶやくトレードのことだ。

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