破壊された男

破壊された男 (ハヤカワ文庫SF)「虎よ!虎よ!」で有名なベスターのデビュー作である。
古典としてタイトルは知っていたが、早川書房から新訳版が出たので読んでみることにした。
シンプルな設定によるアクション・ミステリーSFであり、いま読んでも十分楽しい。
むしろ、古典として、科学的な厳密さを求めないからこそ楽しめたのかもしれない。
キャラクターが魅力的なので、いまから映像化しても良いと思う。

テレパスによって支配された未来。
テレパスによって事前に発見されてしまうので、犯罪は無くなっていた。
人類世界を2分する大企業のトップであるベン・ライクは、もうひとつの大企業に合弁を申し入れるが断られてしまう。
合弁出来なければ、ベンの会社は相手の企業に競争で負けて、飲み込まれてしまう。
ベンは、相手企業のトップであるド・コートニーを殺すしかないと決心する。
この小説は、テレパスによって心が読まれてしまう社会で、いかに殺人を実行し、逃げおおせるかというミステリーであり、アクション小説である。

テレパスを誤魔化す方法はちょっと間抜けだが、そこはご愛敬。
悪者ではあるベンのキャラクターが良い。
エネルギーに溢れ、モラルは無視して突っ走る姿は潔い。
敵役であり探偵役のエスパー刑事リンカン・パウエルにも、やっていることは犯罪だが人間的には好きだ、と言わせる人物である。
自分の中の殺人者を信じ、計画に頼らず、本能で行動する。
そんな彼が恐れるのが、夢の中に出て来る「顔のない男」である。
最後の怒涛の謎ときで、「顔のない男」が何か、ベンの本当の、無意識下の動機も明らかにされる。

いま読んでも十分楽しめる、色褪せることのない古典SFだった。

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