すばらしい新世界

すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)今頃になって新訳が出版されたディストピアSFの古典である。
この頃の早川書房は、なかなか良い本を新訳で出してくれる。
名前は知っていたが、読んでことがなかったので読んでみることにした。
読んでみてポップな内容と語り口に驚いた。
不愉快なところも含めて、古さを感じさせないコメディだった。

赤ん坊を作る工場から小説は始まる。
品質が一定な人間を作るために、ひとつの卵子を人工的に分裂させる。
五つ子どころか、数十人単位で同じ遺伝子を持った子供が生まれる。

社会は厳格な階級社会となっており、子供たちは物心がつく前から、各階層に見合う人間になる教育を施される。
労働階級の子供は、本に嫌悪感を抱くように、本を手に取ると電気ショックを与えることで条件づけされる。
読んでいて気分が悪くなるが、心理学を利用して不平等な社会を作り出している。

この本では、誰が主人公かが不安定である。
最初の主人公と思われるのは、上位の階級に属するがユートピアに馴染めない男である。
乱交が良しとされる社会の中で、ひとりの女を想い続けて、周りから浮いた存在になっている。

しかし、未開地から条件付けされていない蛮人を連れて帰って来たことで状況が変わる。
彼は、蛮人を連れてきたことで有名人に祭り上げられ、軽蔑していた社会に馴染んでいく。

この辺りから蛮人の視点で語られるようになる。
現代の我々に近い視点を持つ蛮人のユートピアに対する疑問や批判は、読者にも理解し易い。

そして、蛮人は支配者のトップと会談することになる。
トップ自身はユートピアが幻想に支えられていることを理解しており、安定のために真理を捨てたと言う。
真理の追求は変化を生み、不安定さに繋がる。
だから、大多数が幸せで、現状に疑問を抱かない人間と社会の仕組みを作ったと言う。

途中の展開がまどろっこしいところもあるが、笑えるシーンも多く、今読んでも十分楽しめる作品だった。

「胎児の社会的階級が低ければ低いほど」とフォスターくんが言う。「与える酸素量を減らします」酸素不足の影響が最初にあらわれるのは大脳で、その次は骨。酸素量を正常値の70パーセントまで制限すると、低身長になる。さらに減らすと、目のない化け物になる。

以来ずっと、われわれは制限を続けてきた。もちろん、真実のためには、あまりいいことではない。しかし、幸福のためには非常に好都合だった。代償なしに手に入るものなどない。しあわせにも代価が必要だ。

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