生物学者冒険家vsナチス・日本軍vs吸血鬼という、よく分からないがワクワクする組み合わせのアドベンチャー小説である。
吸血鬼が予想外に小ぶりだったのもあって、似たうような雰囲気の名作「ザ・キープ」には遠く及ばなかった。
しかし、読みやすく、楽しめる小説ではある。
第2次世界大戦末期、アメリカの生物学者マックレディは、心ならずも戦争に参加していた。
冒険家でもある彼は、大きの場合、未開地での探索を命じられる。
今回の任務は、中米のジャングルにおけるドイツの不穏な活動の調査だった。
ナチスは日本の協力の元、アメリカ本土を狙うミサイルを開発していたのだ。
しかし、彼らが開発を進めるジャングルには、現地人が恐れる魔物が棲んでいた。
かくして、インディ・ジョーンズばりのアメリカ人とナチ・日本軍と謎の吸血生物の三つ巴の死闘が繰り広げられる。
怪物小説を期待していたが、残念ながら謎の吸血生物はあまり大きくなかった。
作者は、荒唐無稽なアクション小説ではなく、ある程度科学的事実に裏打ちされて事実を元にした小説を目指していたようなので、これは仕方ない。
謎の生物は、人間の心を操る超能力を持ちながら、家族を愛するような傾向もあり、敵としては凶悪さに欠ける。
それに比べるとナチスと日本軍は極悪である。
特に日本人として登場するのは、悪名高い人体実験の部隊である。
これは日本人としては辛い。
敵の怪物が圧倒的に強いわけではないので、マックレディのサバイバルの知識に興味が向いてしまう。
未開地専門なだけあって、ジャングルで生き抜く知恵は、インディ・ジョーンズよりも勝っている。
また、死んだと思われていた友人やその恋人との軽妙な掛け合いは、読んでいて楽しい。
怪獣小説としては敵が小ぶりで、アクション小説としてもずば抜けていないが、読んでいて楽しいエンターテイメントだった。
「国民にどう説明すればいいのでしょうか?」
石井大佐は蔑みに満ちた返答を、木村はよく覚えている。「われわれが建設したのは材木工場だと答えておけばいいい」大佐は部下たちに伝え、部下たちは満州政府にそう返答した。
その日以降、平房の”患者”たちは”丸太”という新たな名で呼ばれることになった。
その日以降、彼らは人間ではなくなった。マックレディは、その皮膚と鱗の下の長い紐状の筋肉は微生物を培養している冷たい血まみれのペトリ皿のようなもので、調理せずにヘビを食べたら1日か2日で間違いなく体調が悪化するとわかっていた。
「やつがこれから持ちこもうとしている厄介ごとは、10段階評価でどれくらいだろう?」
「13くらい?」ヤンニが答えた。
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