銀河の壺なおし

銀河の壺なおし〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)まず、タイトルが可笑しい。
「銀河の壺なおし」って・・・
本書の主人公は、恒星間航行が可能になった時代なのに、壺なおしを職業としている。
当然仕事はなく、日々くだらないゲームで暇つぶしをしていたら、異星人から仕事の依頼が舞い込む。
実にディックらしい、奇想天外なSFである。

高校生の頃は、ディックの神秘的なところや、哲学的雰囲気に惹かれていた。
歳をとってから読み直すと、彼独特のとんでもない展開や、ユーモラスだが哀愁のあるキャラクター、奇妙なガジェット楽しくなってきた。
本書も、そんな期待を裏切らない作品だった。

古代遺跡の発掘(というか海底からの引き上げ)のために、様々な技能を持つ生物たちが集められた。
集めた謎の人物は人間ではなく、異星の生命体である。
発掘のために主人公が訪れた惑星では、不思議な本が売られている。
この本には未来が書かれているのだ。
本の記述に逆らうことは、「運命」に逆らうことになる。
行きがかり上、「運命」と雇い主に逆らうことなってしまう。

終盤、関係者たちは、生命体に吸収されてしまう。
しかし、それは、ひとつの存在となり、個々の失敗者ではなくなることも意味する。
心を開いた女性さえも受け入れた選択を、主人公は拒否する。
孤独のはてに、孤独しか選択できないのがディックのキャラクターらしい。

この小説の中では、ロボット「ウィリス」が一番のお気に入りである。
なにか依頼する場合は、まず「ウィリス」と言わなければならないのが、amazonのAIスピーカーに似ている。
そして、名前を呼ばないと、分かっているも無視する。
将来の夢が作家になること、というのもかわいい。

「小麦トウモロコシ惑星間人民共同銀行です」
「三万五千クランブルは地球のドルでいくらになる?」
「シリウス第五惑星プラブク語のクランブルですか?」
「そう」  
銀行サービスは、一瞬の沈黙のあと回答した。
「二〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇ドルになります」
「ほんとに?」
「わたしが噓をつくとでも?」自動音声がいった。
「あなたがどなたかも知らないんですよ」

「わたしの胸の中央に、〈ウィリス〉という単語がステンシルされていることにお気づきでしょうか。わたしは、その言葉で始まる命令に従うようプログラムされています。たとえば、ご自分の作業場をごらんになりたければ、『ウィリス、わたしの作業場に案内してくれ』とおっしゃってください。そうすれば、喜んでご案内いたします。それがわたしの喜びであり、願わくはあなたさまにとっても喜びでありますように。」

「まずウィリスと──ああ、めんどくさい」とロボット。「いいですよ、もう。多数の凶暴な生命体に殺されます。さまざまな事故によって命を落としますよ」

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