心霊電流

心霊電流 上久々に、キングの上手さを実感した。
キングはなぜ、少年時代をこんなに生き生きと描けるのだろう。
でも、怖くない。
最後の最後に古典的なホラーになるのだが、ちょっと唐突な気がする。
それに、ラブクラフト的な恐怖は、実際あまり怖くない。

ジェイミー住むアメリカの小さな町に、新任の牧師としてジェイコブスは現れた。
若く、魅力的なジェイコブスとその家族は、すぐに町に溶け込み、小さなジェイミーとも友達になった。
ジェイコブスは電気に魅入られている以外は普通の人だったが、妻と幼い子どもを交通事故で失うと神への信仰を失った。
神を冒涜する説教を行い、町を追われる。

成長し、ミュージシャンとなったジェイミーは、コカイン中毒で身を持ち崩す。
そんな時、サーカスで電気を使ったショーをしているジェイコブスと再会し、彼独自の電気療法でコカイン中毒から回復する。
数年後、ジェイコブスは電気を使った新興宗教を立ち上げ、医者が見放した患者を治療していた。
ジェイミーは、奇跡の回復をした患者の中には不可解な後遺症が発生する者おり、ジェイコブスの活動を怪しんでいた。
その彼のところに、ジェイコブスから協力の依頼が来る。
ジェイコブスが追求していたのは、電気の奇跡ではなく、もっと禍々しいものだった。

前半、少年時代の描写は素晴らしい。
キングは、なぜ子供の頃の風景を、こうも美しく小説にできるのだろう。
人並み外れた記憶と創造力と描写力の組み合わせだろうか。
そして、子供の頃の家族や友人や町の思い出が美しいほど、後の悲しみが増してくる。

中盤で描かれるミュージシャンの生活も面白い。
プロのミュージシャとの演奏をしたことのあるキングの経験が活かされているらしい。
キングの小説で主人公が青年の場合、酒や薬物に溺れる傾向がある。
これもキングの経験からなのだろうか。

そして、最後の実験。
最初から散々ほのめかされているので、読者は不気味な事件が起こることは分かっている。
むしろ、期待しているのだが、なかなか起こらないので、少しイライラしているかもしれない。
ついに訪れた事件は、とても古典的なものだった。
電気を中心にしているのが若干変わっているが、本質的にはラブクラフトである。
(フランケンシュタインを考えると、電気も異質ではないが)
ただ、日本人が読んでもラブクラフトはあまり怖くない。
「ペット・セマタリー」的な怖さはあった。

僕は左手の指三本、人差し指と中指と薬指にさらに力を込めた。
痛みを感じたが、僕は気にしなかった。
なぜなら、Eは正義だから。
Eは神のコードだ。

ノームは肩をすくめ、そのあと、僕のミュージシャン人生で最も役立つアドバイスをくれた。
自信がなかったら、弾くふりをしろ。
ノームは朽ちかけた歯をむき出しにして、悪魔みたいな笑みを浮かべた。
「とにかく、俺は声を振り絞って唄うから、おまえの演奏は客に聞こえやしない」

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