時砂の王

いわゆるタイムトラベルものである。
過去を改変すると、未来に影響を及ぼすタイムパラドックスは避けられない。
そのため、この分野の小説は、どうしても論理的に破綻してしまうことが多い。
この小説でも、よく考えると無理があるのだが、それを忘れさせる勢いがある。

人類は謎の敵対勢力とお互いの生存をかけた戦争状態にある。
戦争は新しい局面に入っており、過去にタイムトラベルし、先祖を抹殺するという作戦が取られるようになった。
強化人間?であるメッセンジャーは、歳を取ることもなく、人間よりも優れた能力を持っている。
メッセンジャーたちは、過去を自分達に有利な状況とするため、帰ることのない片道切符の旅に出かける。
主人公のメッセンジャーも旅立つ前に女性と恋に落ちるが、二度とその女性と会うことはない。
作戦がうまくいっても、その女性にどのような影響があったか知ることはない。

主人公のメッセンジャーは、様々な時代で、その時代の人類と力を合わせて敵と戦う。
しかし、負けが見えた段階で、共に闘った人々を捨て、他の時代の闘いに向かわなければならない。
人類の存続のためには、メッセンジャーたちが全滅するわけにはいかないからだ。

いつくつかの戦場の中で、古代日本の邪馬台国が中心に描かれている。
形だけのリーダーに祭り上げられていた卑弥呼が、主人公との共闘で、真のリーダーとして成長していく。

時代によっては人間の科学や武力は貧弱だが、敵も同じレベルなので、各時代で戦力の拮抗した死闘が繰り広げられる。
邪馬台国の時代では、妖怪と戦っているような雰囲気になる。
過去が変わったことで、いきなり援軍が現れたりと、タイムパラドックスをうまく物語の盛り上がりに活かしている。

「それは違う。我々はこの時点より前に来ることが できなかった んだ。なぜなら、我々の時間枝は、たったいま産まれたのだ」

遠祖、卑弥呼よ。貴女がなくば、世界中の戦線も波及的に崩壊していた。全人類と全歴史に代わって、深く感謝する。

昔はメッセンジャーの存在自体が伝説上のものだと思われていた。しかし、18世紀ごろから発掘調査が進み、エジプトや白アフリカ地域に伝わる、いかなる宗教とも関連のない不思議な伝承が見直されて、史実だったのではないかと徐々に考えられ始めた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です