三鬼

久しぶりの三島屋変調百物語。
宮部みゆきに関しては、文庫本に落ちてから購入するのがマイルールである。
三島屋百物語の第4弾である「三鬼」が出版されたのは知っていたが、文庫になるのを待っていたのだ。
待ったかいがあった。
宮部みゆきは、時代劇が一番おもしろい。

シリーズも4作目となると、良い意味でのパターンが出来てくる。
「序」での口上が良い感じで、むかし楽しみだった時代劇のシリーズが始まったような心持ちになる。

人は語りたがる。己の話を。
だがそれは時に、その人生の一端に染みついて離れぬ何かを他者に見せることにほかならぬ。多くの耳に触れ回りたくはない。しかし一度は口に出して吐き出してしまわねば、その何かを墓の下まで持って行くのはどうにも辛い。その何かが、いざとなったら墓石の下に収まらないかもしれないという不安が胸を塞ぐ。
だから、三島屋の変わり百物語は人を集める。
そこに難しい決まり事はない。聞いて聞き捨て、語って語り捨て、ただそれだけだ。
今日もまた一人、黒白の間に新しい客が来る。

本書は、迷いの旅籠、食客ひだる神、三鬼、おくらさま、の4編で構成されている。

「迷いの旅籠」は、とある村での村祭が、領主の不幸と絵師の情念が重なったことで、恐ろしい事態を招いてしまう。
キングのペットセメタリーを思い出させるネタだ。
宮部みゆきの三島屋変調百物語は、体裁こそ正統な時代劇だが、考え方がモダンホラーだと思う。
日本人の死生観とは異なるイメージの作品になっている。

「食客ひだる」は、とにかく泣かせる。
峠で空腹の怪異に取り憑かれた男は、苦労をしながらも何とか怪異と暮らしていく。
貧乏神に情が移る展開である。
これはズルい。
この1編だけでも、この本を読む価値があると思う。

「三鬼」は、復讐により役目を解かれて侍が、人里離れて村の守り番をすれば役に戻れると約束される。
もともと罪人だけで作られた村は、いまは2つに別れており、村人たちはギリギリの生活をしている。
しかし、子供や年寄りがおらず、雰囲気がおかしい。
どうやら、この村には鬼が出るらしい。
そして、その鬼の正体は。

「おくらさま」では、聞き手のおちかが、謎をと解くために、自ら江戸の街へ捜索に出る。
新しい展開である。
彼女たちの頑張りもあって、家の安泰を保証するかわりに、娘を生贄に求める「おくらさま」の謎は解明された。
その後、おちかが大切に思う人が彼女の元を去り、新しい人物が仲間に加わった。
早く、続きが読みたい!

三島屋の変わり百物語から一人が去り、一人が加わった、秋の好日のことである。

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