なめらかな世界と、その敵

最近の日本のSF作家は、小松左京のような大物こそいないものの、面白い作品を書く人が多い。
残念ながら、新しい人の名前をなかなか覚えられない年齢になってしまったが、評判の良い現代作家の本は読むようにしている。
この本の作者もまったく知らなかったが、読んでみたら面白かった。
新しいタイプのラブストーリーだと思った。

なめらかな世界と、その敵
パラレルワールドを自由に行き来できるようになった未来。
好きな世界を選べるようになった人間にとって、移動能力の喪失は最悪の病になった。
世界から見放された少年を愛する少女の選択とは・・・

ゼロ年代の臨界点
別の時間線における日本SFの黎明期の物語。
かなりマニアック。

美亜羽へ贈る拳銃
伊藤計劃の「ハーモニー」へのオマージュと言える作品。
脳へのインプラントで「想い」までがコントロールできるようになった時代。
自由や愛はどうなるのか、その葛藤が描かれる。

ホーリーアイアンメイデン
妹から姉への、死後の手紙で綴る、凝った構成の短編。
他人を操れる姉の能力と妹の秘められて役割が語られていく。

シンギュラリティ・ソヴィエト
アメリカとソ連の人工知能開発競争の果てに、勝利したのは人間ではなかった。

ひかりより速く、ゆるやかに
ある新幹線だけが、その他の世界と時間の流れが変わってしまった。
通常の世界と比べて、恐ろしくゆっくりだけ新幹線の中でも時間は流れ、新幹線も進んで行く。
計算上は、新幹線が本来の目的地に到着するのは、数万年後である。
主人公は、その新幹線で修学旅行に行く予定だった高校生。
彼ともうひとりだけが修学旅行に参加できなかったため、クラスメートたちとは違う時間を生きることになる。
荒唐無稽な設定だが、感動的な物語になっている。

手足を怪我しようが視覚聴覚を失おうが家族を失うが、少し居場所を変えればいいだけだ、何も苦しまなくていい。いつでも戻ってきていいし、戻って来なくてもいい。けれど、乗覚障害にもなれば、すべての「逃げ」が不可能になる。

「実継さんには、そんな逃げ道はあげません。正義や、倫理や、愛情や、魂なんて言う、インプラントいれば一瞬で燃え落ちる幻想、妄執をずっと抱えたままで、答えも出せずに、苦しみ続けてください。」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です