柳生十兵衛死す

山田風太郎のぶっ飛んだ小説には慣れているつもりだった。
しかし、本作はスゴい。
2人の柳生十兵衛が登場する。
それも室町と慶応の2つの時代をタイムトラベルして闘うのだ。
もう、何が何やら。
怪作にして、傑作である。

2つの時代を行き来するのにタイムマシンは使わない。
剣法と能の奥義で時空を移動するのだ。
書いていても、訳がわからない。
しかし、読んでいると不思議な説得力に圧倒される。
他人が憑依する能と自分を無にすることで相手から姿を消す新陰流の奥義が、時空を結ぶ。

舞台装置も面白い。
一休や足利義満が登場し、天皇家を巡る陰謀に十兵衛たちは巻き込まれる。
2つの時代を十兵衛と世阿弥が行きかい大活劇となる。

違う時代に飛んだ十兵衛は、しがらみを忘れ、巨大な敵と戦うことだけに喜びを見出していく。
周りの人間には迷惑だが、読み手にとってはこのうえなく痛快である。

「わが心を敵に陰す最大の法は、いわゆる無念無想になることだが、それは実に至難のことだ。そこで陰流のながれをくんだ 上泉伊勢守 どのは、逆に二つの心を持つ法を編み出されて、それを新しい陰流、新陰流と名づけられた。つまり敵を右から打とうと考えたとき、同時に左から打つ心を持つのじゃな。一瞬に敵は迷う。」

実に、この慶安の能楽師は、能は過去へ飛ぶタイム・マシーンになる可能性があるといっているのであった。

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