LIFE SPAN老いなき世界

「老い」は病気であり、治療が可能である。
基本的には、この1点だけが、この本の主張である。
その主張を支える様々な知見が紹介されているのだが、専門用語も多く、すべてを理解したとは言い難い。
しかし、この本の主張が本当ならば、世界は変わる。

「老化」に関して重要なのは著者の言うところの「サバイバル回路」である。
この回路には、DNAの修復と増殖という2つの機能があるが、DNAの修復が忙しいと、増殖がお留守になってしまう。
これが「老化」の原因だとしている。

「エピゲノム」も重要である。
ゲノムは、生物の情報をデジタルで保存しているため、情報が劣化しない。
成長後のDNAから作ったクローン羊のDNAに劣化はなかった。
それに対して、DNAの発現をコントロールするエピゲノムは、アナログ情報である。
時間とともに劣化する。
エピゲノムを安定化できれば、若返りが可能かもしれない。

「老化」は、病気であるとともに、すべての源でもある。
心臓病やがんは、老化の影響で急速に悪化する。
個別の病気の治療法を発見するよりも、おおもとである「老化」の治療を目指したほうが効率が良い。

現在、医療のイノベーションとして、老化の治療薬、iPS細胞の利用、身体のモニタリングの研究が進んでおり、近い将来、そのうちのいくつかは実現すると見られている。
しかし、現在最も簡単な延命方法は「少食」である。

長寿社会の未来には、いくつかの不安がつきまとう。
人口爆発、食糧危機、医療費の高騰などである。
著者の読みは、いくらか楽観的である。
先進国での人口増加率は下がっており、遺伝子組換え作物で食料の増産は可能である。
健康寿命が伸びれば、必要な医療費は減少する。
科学技術の進歩は予想を超えるものだし、人間はいままでも自然の限界を超えてきた。
医療の研究者による社会の未来予測をどこまで信じていいものか、とも思う。
しかし、寿社会の到来は間違いがなく、社会的な受け入れ方法を考えなければならない時期だとは思う。

若さ→DNAの損傷→ゲノムの不安定化→DNAの巻きつきと遺伝子調節(つまりエピゲノム)の混乱→細胞のアイデンティティの喪失→細胞の老化→病気→死
これが意味するところは重大だ。このどれか1つにでも人の手で働きかけることができれば、人間がもっと長生きするのを助けられるかもしれないのである。

たいていの人は考えもしないだろうが、長生きすると思わぬ副産物がついてくるのだ。何かというと、90歳を超えれば、がんで死亡するリスクが急激に下るのである。もちろん、それでも結局はなにか他の病気で亡くなるわけだが、がんに伴う大変な苦痛とコストが大幅に軽減される。

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