人口減少社会のデザイン

今後の日本が向かう人口減少社会について、人類史、社会保障、資本主義、医療、死生観、地球倫理など多角的に検討している。
世界の統計データを引用しており学術的な考察かと思えば、SF的な発想があって面白い。
ただ、観念的で分かりにくいところもある。

AIによる日本の未来にシミュレーションから入るところが驚きである。
人口、財政、資源、雇用、格差、健康、幸福という評価軸でシミュレーションを行い、都市集中型より地方分散型の方が有利であると結論を出している。
アメリカ型よりもヨーロッパ型だ。

人口減少社会の到来として、「集団で一本道を登る時代」から個別に幸福を求める時代になってきている。
経済成長は、幸福を保証しなかった。
近年、若い世代はローカル志向であるという。
「経済」「効率化」を求めると「少子化」に向かう傾向がある。
「21世紀は世界人口増加の終焉と人口高齢化の世紀」である、とも言われている。

日本の変遷を見てみると、1950〜70年代は、農村から都市へ人口が移動する「ムラ」を捨てる政策だった。
1980〜1990年代では郊外型ショッピングモールに普及により「マチ」を捨てる政策だった。
しかし、2000年代後半から転換が始まっている。
一極集中から、多極集中に向かっている。
現代は地域密着人口が増加している。
その構成は、子どもから老人へと変わっている。

科学の基本コンセプトは、物質→エネルギー→情報→生物/時間へと変化している。
それには、グローバルよりもローカルの方が相性がいい。

人類史を見てみると、人口・経済が拡大・成長から成熟・定常化に行こうする時に革新的変化・文化的創造が発生する。
狩猟採集段階からは「心のビックバン」と呼ばれる現象があった。
象徴表現、文化的・美術的表現が発生した。
つまり「心」が生まれた。
農耕開始・都市の成立を経て、「枢軸時代/精神革命」が起こる。
キリスト教、仏教等の世界宗教が発生し、農業文明の資源的・環境的限界に突き当たり、消費ではなく文化的な価値の創造に向かった。
市場化、産業化、情報・金融化を経て、いま次の段階に向かっている。
人間の利他性、協調性、関係性の研究が増加しているのが、その証拠だと思われる。

著者は、資本主義の多様性についても考察している。
アメリカは、強い拡大・成長志向と小さな政府である。
対して、ヨーロッパは、環境志向と比較的大きな政府である。
日本は、理念の不在を先送りしている。
著者が主張する日本が目指すべき方向は、次の通り。
・「人生前半の社会保障」の強化
・「ストックに関する社会保障」の強化
・「心理社会的ケアに関する社会保障」の強化

医療の新たな視点も提案している。
「大量生産・大量消費・大量廃棄」が「栄養過多→肥満等→高有病率→高治療費」となっている。
医療に大きな投資をしているアメリカは、平均寿命が長くなっていない。
必要なのはライフスタイルの見直しである。
現代病は、社会や環境が根本原因なのだ。

持続可能性の観点からより望ましいと考えられる地方分散型シナリオへの分岐を実現するには、労働生産性から資源生産性への転換を促す環境課税、地域経済環境を促す再生可能エネルギーの活性化、まちづくりのための地域公共交通機関の充実、地域コミュニティを支える文化や倫理の伝承、住民・地域社会の資産形成を促す社会保障などの政策が有効である

この場合のポイントは「見知らぬ者同士」という点であり、残念ながら現在の日本の場合、「知っている者同士」の間では極端なほどに互いに気を遣い、また同調的にふるまおうとするが、見知らぬ者あるいは集団の「ソト」の者に対しては、ほとんど関心を向けないか、潜在的な敵対関係が支配するという現状がある。そして、東京などのような都市は、文字通り”無言社会”というべき状況になっている。

本章では、人口減少社会としての日本における「死亡急増時代」という話題から始め、看取りをめぐる課題にも言及しつつ、「深層の時間」そして「自然のスピリチェアリティ」という私自身の死生観に関する視点を提起すると同時に、近年の新たな状況がもたらす「生と死のグラデーション」、「リアルとバーチャルの連続化」といった話題にそくしながら死生観をむぐる現代的な課題について考えてきた。

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