蜂の物語

面白かった!
蜂の世界には、人間とは違う社会とコミュニケーション、宗教がある。
異質な知性の社会を描く本作は、異星人の世界を描くSFのようである。
主人公のスリリングな生き方に引き込まれる。
デストピア小説だと言われるが、あまりに異質な世界なので、全然そんな感じはしなかった。

ミツバチの巣の中で最下層の一族に属するフローラは、巣の掃除を担当する一族にしては身体が大きく、特異な存在だった。
女王の巫女である高位の一族のひとりが彼女に目をつけ、実験を行う。
卵の世話に始まり、生まれたばかりの子供の世話や、女王の相手、蜜の収集など、本来は許されない仕事を任される。
その過程で、フローラは様々な世界を知り、ついには卵を生むようになってしまう。
フローラは女王以外は卵を生んではいけない、という最大の禁忌を破った秘密を抱えながら、スズメバチの襲来や異常な冬の到来、伝染病に蔓延などを経験する。
そして、最後には、驚くべき役割を果たすことになる。

ミツバチの生態を元に書かれた本作を読むと、ミツバチの驚くべき世界を知ることができる。
小説なので、ミツバチが擬人化されているが、完全に現代の人間と同じ感覚ではない。
フェロモンによるコミュニケーションや女王への宗教的崇拝など、ミツバチの生態に人間的な要素と違和感をうまくミックスしている。
読んでいると、人間とは違う文明世界に紛れ込んだような気持ちになる。

超個体であるミツバチの巣は、厳格な役割分担と没個性が支配している。
その中でフローラという個性が、悩み、苦しみ、毅然と生きていく姿がドラマになっている。
面白かった。

女王のことを思ったとたん、フローラは神々しい香りのする貴重な分子を探し当てた。それは、気流が収斂する場所でバランスを取り、宝石のように回転していた。フローラの胸は愛情と心強さに満たされた。

「この娘がまたしても罪を! この娘の卵を殺して!」
その声がかき消すように詠唱の波が大きくなり、フローラは脈打つ巣房にシスター・オニナベナを押し倒し、その首をへし折った。

<集合意識>はみなの夢を、外役蜂が大胆かつ優雅に舞い飛ぶ夏の焼けつくような青い大気にまで押し上げた。

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