mRNAワクチンの衝撃

新型コロナのワクチンとして驚くべき速度で開発されたmRNAワクチンの開発ドキュメントである。
一般にはファイザーが開発したと思われているが、実はドイツの製薬ベンチャー・ビヨンテックが開発し、提携したファイザーが試験の支援とデリバリーをしている。
ワクチン開発の大変さがよく分かった。

mRNAワクチンは、元々はがん治療のために長年開発されており、新型コロナの蔓延を予見したビヨンテックのCEOウールによって、急遽新型コロナ用に路線変更されたものだった。
mRNAワクチンは応用の幅が広いとはいえ、ウールが思いついてからワクチンの完成が6ヶ月しかかからなかったのは、驚くべき速度だ。
今後も様々なウィルスに対するワクチンの開発が可能であり、人類とワクチンの間の戦争が新しいステージに入ったと言っても良い。

この短期間にでワクチンを開発するためには、ビヨンテックを始め関係機関の人々の努力と工夫の賜物であることが、この本を読むと良く分かる。
幸運も味方したが、いくつかのタイミングで判断を誤れば、遥かに完成時期が遅れた可能性がある。
自社や自国の利権を守ることよりも、ワクチンの完成と普及を最優先にしたからこそ早期の完成にこぎつけた。

映画になりそうな個性的なキャラクターやエピソードが多く、読み物としても楽しめる。

「mRNAには非常に独特な特性があり、私たちはそれを活用できると考えました」とエズレムは説明する。mRNAを用いた薬品に含めるべき成分は、遺伝子暗号の列だけだ。そのため数ヶ月どころかわずか数週間単位で設計・製造できる。

すなわち、プロジェクト・ライトスピードは2つのメソッドどちらも試し、出てくるエビデンスに従うと言うことだ。それはウールの愛する哲学者である、経験主義者のカール・ポパー流のやり方だった。

業界の多くの人と同じように、汚染を避けるためにアレックスは普段、ノートを実験室に持ち込んでいなかった。わかった事は使い捨てのペーパータオルに走り書きしていたのだ。最終的にはそれを説明書にまとめることになるが、アンゲラ・メルケルが第二次世界大戦以来最大の困難に直面しているとドイツ国民に警告をする中、さしあたりアレックスが世界最大級の企業に提供できるのは、机にうずたかく積み上げられたしわくちゃのペーパータオルだけだった。

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