ホラーは誘う―ダーウィンに学ぶホラーの魅力

ホラーがなぜ魅力的かについて、進化心理学的に分析している珍しい評論。
個別の作品の分析には納得出来ないところもあるが、この視点は新しい。
フロイト的解釈や時代背景を元にしたホラー分析より説得力がある。

ホラーに対する進化論的アプローチとは、進化論を基盤とする社会科学・自然科学の知見を批判に使う手法である。
時代遅れの理論や仮設をふるい落とす、と著者は主張する。
ホラーの批評には、フロイトを使った古いものや政治的意図によるものがあるらしい。
今となっては科学的正しさを疑われるフロイトの理論を使い、ホラーを分析するのは、フロイトを使うと専門家としての威光が得られると批評家が勘違いする、と手厳しい。
また、女性問題を語るためにホラーを使う評論家も批判している。

ホラーの魅力は、フィクションという安全地帯で、人生のシミュレーションが可能で、驚異的な設定の中で擬似的な経験をし、幅広い感情を得ることができることらしい。
そして、ホラーを楽しむためには、精神的な距離を置く必要がある。

ホラー作家たちは人間が進化で獲得した恐怖システムを利用する。
病原体嫌悪、倫理的嫌悪、性的嫌悪である。
病原体嫌悪は、病原体への感染の恐怖から生まれた恐怖である。
現代において、それを有効に使っているのがゾンビ映画である。
周囲の潜在的脅威への強い関心から、人間はモンスターや殺人鬼へ興味を持つ。

科学的な正しさは分からないが、面白い観点の評論だった。

わたしたちは神々に生贄を捧げたり祈ったりして交渉しようとする。直感的に、彼らが様々なものを望んでおり、私たちについて判断を下したり、そして、取引の相手となりうることを仮定するのだ。つまり彼らも私たちと同様の心理作用や動機を持っていると仮定するのである。

ロメロの自身が述べているように、彼のゾンビは「特に何かを表しているわけでありません。彼らは人間が対処の仕方を知らない地球規模の災厄なのです。」そして彼のゾンビ映画は「人々がこれに対してどのように反応し、あるいは反応に失敗したかについてなのです。」

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