怪異猟奇ミステリー全史

前半の西洋におけるミステリーの歴史は興味深い。
ゴシックとゴシック・リバイバルに始まり、ホラーとテラーの対比や科学の発達を背景とした探偵小説の台頭など、知らなかったミステリーの歴史が語られている。
後半の日本における展開は、趣味ではなかった。
図書館で借りたのだが、Kindle版で買ってしまった。

ゴシックとはルネッサンス期には蔑称だった。
無知蒙昧で迷信に支配されていた暗黒時代を招来したゴート人のような、という意味でゴシックと言われていた。
ところが、後にイギリスで懐古主義としてゴシック・リバイバルが起こる。
フランス対イギリスの中で、アンチ・フランス、反合理主義、反古典主義というメンタリティーである。
本当に中世を復活させたいわけではなく、理知と啓蒙の近代都市文明へのアンチとしての運動だった。

恐怖小説は2つの派閥に分けられる。
テラー派とホラー派である。
テラーは心を広げ、心身の機能を高めて覚醒させる。ホラーは心身を縮み上がらせ、凍りつかせ、瀕死の状態に追い込む、と言われている。
現代のホラー作家スティーブン・キングも「最上段には心理的恐怖(テラー) がある。作家なら読者の心に惹起できる洗練された感情だ。その次に、生理的恐怖(ホラー) があり、最下層に本能的嫌悪感を刺激する恐怖がある。」と言っている。
また彼は、「ホラー」を使うことに躊躇はない、とも言っている。

19世紀にはスピリチュアリズムと探偵小説が台頭した。
どちらも科学の進歩と深い関わるがある。
スピリチュアリズムは、宗教というよりも死後の世界を科学的に解明しようとする動きだった。
探偵は、事件を読解する、暗号解読の達人である。
自然の神秘(真理)を解明する科学と同じ方向性である。
フロイトが行った精神分析における「仮面剥奪、すなわち暴露」と「発掘作業すなわち原型復元」は探偵行為に他ならない。

社会という身体(環境) の中の病原菌(犯罪者) を同定(探偵捜査) し、統御(逮捕・監禁) し、最終的には根絶(処刑) する。まさにこうしたレトリックが多用されることからわかるように、十九世紀末には細菌学と犯罪学が同種のものとみなされました。

推理小説は、司法制度が整い、個人の自由と権利が保護され、警察組織ができ、科学捜査が導入され、普通教育制度がいきわたって庶民がリテラシーを獲得し、都市文化が興り、かつ論理的思考法を身に付けることができる社会においてようやく栄えるものです。

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