妻子と部下を惨殺し、鬼と恐れられている旧勘定奉行・加賀殿が、海辺の小さな藩に流される。
小さな藩は、幕府からの命に萎縮し、呪いを恐れ混乱する。
そんな中、加賀殿のお相手に選ばれたのは、江戸から流れ着いた天涯孤独の「ほう」だった。
宮部みゆきの時代劇は、やはり凄い。
この本でも、いつも通り、細かい時代背景の描写や泣かせる人情話に溢れている。
この本で驚いたのは、ひとつの藩を丸ごと描こうという姿勢である。
小さい藩ながらも、武士、町方、漁師、工房で働く人々など、様々な立場の人間が生活している。
ラスト近くでは、溜まり溜まったストレスと恐怖によって、人々は憎い合い、藩全体がパニックに飲み込まれていく。
町全体が狂気に陥っていく姿は、スティーヴン・キングの恐怖小説を思わせる。
女だてらに岡っ引きの手伝いをする宇佐も良いが、みんなから知恵遅れと思われている「ほう」が泣かせる。
「ほう」は、阿呆から来ている。
後に加賀様から、自分の道を見出す意味で、「方角」の「方」という名前を貰う。
最後には、「宝」となる。
宮部みゆきの緻密さ、恐るべし!
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