ジョン・ヴァーリイは私の中から抜けていたSF作家だ。
70年代の作家はどうもイメージが薄い。
この短篇集を読んでも、私の感性に合う作品はなかった。
テクノロジーと社会、ジェンダーや障害者などのテーマが恋愛を絡めてうまく描かれているとは思う。
【逆光の夏】
太陽系の他の惑星で生活するようになった人類の生活が、美しい水星の風景と伴に描かれている。
そこでは、新しい家族のあり方と葛藤が提示されている。
【さよなら、ロビンソン・クルーソー】
巨大なディズニーランドのような施設で遊び少年が、外部からやって来た女性との交流により、自分の過去を思い出す。
【バービーはなぜ殺される】
自己を捨てて同じ姿形を取る新興宗教の団体の中で殺人事件が起こる。
監視カメラは犯人を捉えていたが、同じ姿をしているので個人を特定出来ない。
事件を解決するために刑事は驚くべき方法を取る。
【残像】
目が見えず耳が聞こえない障害者の集団は、自分たちだけの世界を作り、自給自足の生活をしていた。
たまたま集団に紛れ込んだ主人公は、自分の方こそがコミュニケーションに障害があることに気付く。
【ブルー・シャンペン】
ブルー・シャンペンと呼ばれる無重力空間の球形プールの監視員は、麻痺した全身を機械のサポートで動かす有名女優と恋に落ちる。
順調に思えた2人の生活も、女優に仕事がなくなり機械のサポート費が払えなくなったことで、破局に向かう。
【PRESS ENTER】
自殺した隣人の残したコンピュータには、不可思議なメッセージが残されていた。
主人公は警察に協力する女性技術者と伴に謎を解くが、関係者は次々と自殺していく。
私が一番好きなのは「バービーはなぜ殺される」である。
いかれた話に聞えるのはよくわかっている。
わたしだってずいぶんいかれた話だと思った。
そのとき、まるで天啓のように、ピンクの考える”話す”とわたしの考えるそれとはまったく別物なのだとひらめいた。
彼女にとっての”話す”は、全身のあらゆる部分を使った複雑な交流だ。
彼女はわたしの筋肉のさまざまな動きから、まるで嘘発見器のように、言葉や感情を読み取ることができた。
彼女にとって、音は、意思疎通のほんの一部分でしかなかった。
外部の人びとと口でしゃべるときに使うだけのものだった。
ピンクはその全身全霊をもって話していた。(「残像」より)
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