全身麻痺の車椅子鑑識官リンカーン・ライム・シリーズの新作である。
もっとも最新作の「ウォッチメーカー」が既に高い評価を得ているが、文庫版で揃えている私には、「石の猿」が最新作である。
中国からアメリカに密入国者を乗せて来た密航船が、ニューヨーク直前で、爆発、沈没してしまう。
何とか上陸した生き残りを、中国マフィアの殺し屋が狙い、その殺し屋をライムのチームが追う。
今回は、少し勝手が違う感じである。
中国人の風俗や現代中国の問題についての描写が多く、ライムたちの活躍が目立たないような気がした。
ホワイトボードに発見された証拠を書き並べ、読者を推理へと誘うのはいつも通り。
だが、逃亡している中国人と殺し屋の動きは、読者に詳細な説明がされているので、推理すべきことは無いと思えた。
上巻を読んでいる時には、珍しく退屈な作品だと思っていた。
しかし、甘かった。
最後の最後で、予想もしなかったどんでん返しが待っていた。
やはり、巧い。
今回は、中国人刑事のキャラクターが素晴らしい。
とても怪しいこの刑事が、ライムのチームの一員となり、読者をヒヤヒヤさせる。
だが、やがて気難しいライムの友人となり、アメリカ的科学捜査とは違う方法で、犯人に迫っていく。
ちなみに「石の猿」とは、岩山に閉じ込められた孫悟空のことである。
捜査の上で重要なお守りだが、それだけではない。
中国人の刑事が、動かない身体に閉じ込められたライムを、推理に集中できる状態を運命づけられた「石の猿」だと言う。
それを聞いて、ライムは現状を前向きに受け入れられるようになる。
[amazonjs asin=”4167705575″ locale=”JP” title=”石の猿〈上〉 (文春文庫)”]